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久しぶりに

ラヴクラフト全集を読み返してたら風邪を引いた。

異次元の神々の呪いかもしれないけれど、
風呂の洗い場で素っ裸で読み耽ってたのが原因な気もする。
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by obtaining | 2010-01-11 23:09 | diary

バス停から


「や、やり方・・・ってそ、そんなの知ってるに決まってるでしょう!」
江見さんが紺色の制服のスカートの裾を翻しながら物凄く不機嫌そうに言う。

「じゃあ、どうやるの」
そう言うと江見さんは黙った。ぐぐうっと小さな手が握り締められている。
最近判ってきた。これは言うのが恥ずかしいとか、言いづらくてといった理由じゃない。
知らないのだ。

「知らないんでしょ。」
「知ってる!知ってます!」
「知らないなら知らないって言えば良いのに。」

「知ってるもの!知ってて言わないだけっ!」

はあ、と溜息を吐く。
瞬間、江見さんの額にビキビキと音を立てるかのように血管が浮く。
あー怒っている怒っている。

国内一の企業体の創立者をおじいさんに持ち、
県下一の大きな家に住んでいる一人娘で、
市内で一番ランクの高いこの学校の生徒で、学内一に可愛くて、学年一の秀才である江見桜さんは「知らない」と云う事が大嫌いだ。
負けず嫌いというよりもどちらかというとそういう生き方だと言っても良いくらいに江見さんは知らないと云う事が嫌いだ。
知らない事を知らないとは決して言わず、次の日には徹底的に調べ尽して来る。
つまりは気位が高いという事なのかも知れないけれど、江見さんは我侭ではないのでつまり何だかその行動はやたらと可愛い。

「君、私の事馬鹿にしてるでしょう。」
フランス人形のように自然な栗色の髪と色素の薄い、艶やかな白い肌がわなわなと震えている。
すっと伸びた眦を向けてきっとこちらを睨んでいる。

「してないよ。知らないでしょって言ってるだけ。」
「知ってる!」
「いや、多分知らないはずだよ。」

いや、多分じゃなくて絶対知らない。でなければこんな事は言わない筈だからだ。
4分前、江見さんは商店街のアーケードを帰る道すがら、僕に向かってこう言ったのだ。
「ねえ、私もそろそろフェラチオ位は君にした方が良いのかな。」
満面の笑みで。

江見さんの声は涼やかで生徒会仕込みの凛とした口調は非常に聞き取りやすく、つまりは良く通る。
向かって左側にいた八百善のオジさんはぎょっとした顔でこちらを見、右側にいたブティック山口の店先にいたおばさんは怪訝な顔をしながら振り向いた。
眼の前を歩いていたカップルの髭面の少し怖そうな男の人は振り向いた後に皆がするように江見さんの顔と制服姿を舐め回すように見て隣の彼女に抓られていたし、
斜め前を歩いていた禿頭のおじさんは振り向きこそしなかったけれど「ん!?」と声を上げ、明らかに背中をビクンとさせた。
因みに僕は口に含んでいた飲みかけのコーラを思い切り噴いた。

時計を見る。ここは田舎だからこの時間にはバスは30分に一本位しか来ない。
バスが来るまではあと15分位はあった。
夕暮れがかった日の光が柔らかく斜めに射してきていて、バス停の影が長く延びている。

最初に江見さんと帰ったのは確か、7月位だった。
僕が生徒会に入って2ヶ月位。その頃の僕には江見さんは一つ年上の、手に届かない位に凄い女の人だった。
大人っぽくて一つ一つの仕草が艶やかでカッコよくて、凛としている。

今よりもずっと日は長かったけれど、でもその日もこの位の夕焼けだった。
このバス停で立っていた江見さんを見て、挨拶するべきかしないべきかで固まっていた僕の顔を見て、
「君も、このバス停使ってるんだね。」と江見さんはそう言ったのだ。


@@
もしかしたら江見さんなりの好意の示し方なのかもしれない。と思ったのはそれから1ヶ月後だった。
1ヶ月連続で帰り道のバス停で江見さんと会い、
「君も、このバス停使ってるんだね。」と聞かれ続けたからだ。
僕は1ヶ月の間、毎回「そうです。」と答え続け、事の次第を今までの人生の中で一番深く慎重に考えた後に、競馬をやった事はないけれど恐らく万馬券に全財産を掛けるのと同じような気持ちで
「明日は何時に帰るんですか?」と聞いた。
そして続けて、もし良かったら家の方向も一緒ですし、学校から一緒に帰りませんか。とそう言った。

江見さんが小首を傾げて、暫く考えるような素振りをしたから僕は焦った。
やってしまったかと思ったのだ。
江見さんのその仕草がこれといって冴えた部分のないただの偶々バス停で頻繁に会うというだけの後輩に何だかとても場違いな提案をされたといったように見えたからだ。

江見さんは暫く考えてから僕の顔を見て、
「校門にする?それとも下駄箱にしようか?
下駄箱にする位ならクラスまで迎えに行った方がいいかな?待ち合わせはどれが良いと思う?」
と、そう言ってきた。
「下駄箱やクラスは恥ずかしいので校門で待ち合わせが良いです。」
とそう言うと、江見さんはむっといつもリップクリームを塗りたてのようにつやつやとした唇を突き出して、
「そんな事は判ってる。じゃあ校門にしよう。」
と言った。

そして次の日、校門からの道すがら、江見さんはクラスや下駄箱で待ち合わせをした場合にいかに男の子が恥ずかしいと考えるかと云う事を小説や映画なんかを引き合いに出しながら滔々と熱く語り、その勢いはバス停でもバスの中でも留まる事を知らず、
最後に江見さんはバスを降りる僕に向かって
「・・・という事を私はちゃんと知っているからね。じゃあまた明日。」
と締め括った。

@@
僕と江見さんが付き合っているのか。というとこれは難しい。
はっきりと付き合っているとは言い切れない。
つまり僕は江見さんの事がとても好きだけれども好きだと言った事はなく。
江見さんが僕の事をどう思っているのかもはっきりと聞いた事はない。

でも毎日一緒に帰るし、たまに電話もするし、休日に遊んだりもする。
そして一度だけキスをした事もある。
つい最近の事だ。1週間前、土曜日に一緒に遊園地に行った時に
最後に乗った観覧車の一番てっぺんで、外を見ている江見さんの横顔が本当に綺麗で、
思わず僕からそうしてしまったのだ。
ゆっくりと顔を近づけたから、避けようと思えば避けれたと思う。
でも僕の顔が江見さんに近づいていって、ついにはちょん、と唇同士がくっつくまで江見さんは僕の顔を見つめ続け、
そしてちょん、と一瞬だけ唇がくっ付いた後、僕は恥ずかしさで俯いてしまったから江見さんがどうしていたかは判らない。

でも帰り道で江見さんはひたすら僕に恋愛映画とキスとその結果としての結末の関連性を説き、
名作ほど最初にキスをした相手と結ばれる可能性が高いと言った。
僕はそれが江見さんなりの照れ隠しのように思った。
そして何故江見さんがそんな事を知っているのかどうかについては深く考えると顔がにやけてしまいそうなので考えない事にした。

@@

「じゃあ、今ここでしてくれる?」
夕暮れのバス停で僕の隣に立つ江見さんにそう言うと、
江見さんは顔を真っ赤にさせて眦を上げてきっと僕を見上げてからぷいと顔を逸らした。
「君が意地悪を言うから今日はしない。でも明日ならしてあげてもいいけどね。」
つんと顎を上げる。背筋がぴっと伸びているからそうは見えないけれど、
こうして並ぶと江見さんは僕の顎の辺りまでしか身長がない。
多分150Cmかそれ位だ。

「そっか、でも寝転がったり座ったりする場所がないと難しくないかな。」
そう言うと江見さんはひゅんと音を立てるように僕の方に顔を回してきた。
目が猫みたいに爛々と光っている。
江見さんは学校では表情をあまり出さない方だけれど実はよくよく見ると結構表情豊かだ。
今のこれは引っかかったな。という顔だ。

「それは・・・あそこですればいいよ。」
と言ってバス停横のベンチを指差す。このバス停は大通りから一本逸れた所にあるのだけれど、ベンチは人通りの多い大通りの方を向いている。
田舎とはいってもこの時間帯なら人通りは途絶えない。

「寝てするよりも座ってする方が私は得意。」
江見さんはうんうんと頷きながらそう言う。

「でも、少し恥ずかしくないかな。」
きゅん、と音を立てるように江見さんの視線が僕を射す。
長くて綺麗な睫の奥で虹彩の綺麗な瞳がくるんと回って江見さんの口が開く
「確かに少し恥ずかしいかもしれないけど。でも・・・」
一拍置かれる。
考えてる考えてる。
恐らく今江見さんの頭の中では僕と一緒に学校から帰り始めた頃の事が回っているに違いない。
多分僕がクラスまで迎えに行くのが恥ずかしい、と言った件について。

「・・・私はそんなに恥ずかしいと思わないから。」
「そ、そうなんだ。」
「・・・いや、恥ずかしいのは恥ずかしいけど。そんなに気にする必要はないと思う。」

「そっかあ。」
と僕は答える。

アスファルトの向こうからバスがゆっくりとやってきて、タイヤの音を鳴らしながら僕達の前に止まる。
プシュー、と空気の漏れる音を出しながらバスのドアが開く。

僕と江見さんはバスに乗る。

@@

5人しか乗っていない、がらんとしたバスの中で江見さんが窓側、僕が通路側に隣り合って座る。
このバスだと僕の方が早く降りる。
ちなみに江見さんは1年生の時は車で送り迎えをして貰っていたそうで、
バス通学に変えたのは今年の7月からだそうだ。

江見さんの耳元に口を寄せる。江見さんがん?と言う感じに顔を寄せてくる。

「・・・さっきのだけど、僕もした方が良いかな。」
江見さんの瞳がくるんくるんと回る。
つん、と細い顎を突き出すようにして、そこに左手の人差し指を縦にして当てる。
ただ今考えてますのポーズだ。

それから、江見さんは江見さんにしては珍しく、少しだけ首元と頬を紅くして言いよどんだ。
「まずは私の方からしてあげたいんだ。この前は、君からだったし。」
だから、今度して貰っても良いけど明日は私から。と江見さんは言った。

僕はとても嬉しかった。江見さんのこの前は、が差すものが何だか判ったからだ。

「でもやっぱり外だと、恥ずかしいかもね。」
ヒントに近いかもしれない。やりすぎかも。
江見さんがん?といった感じで今考えてますのポーズに戻る。
江見さんの向こうの窓の外で景色が後ろに向かって飛んでいく。
夕日が江見さんの綺麗な長い髪の毛の上で光る。

「・・・じゃあ、・・・」
言いかけてつっかえる江見さんに
「僕も良く判らないけど部屋、とか。」
そう言うと、僕の顔をちら、と見てくる。
「落ち着いた所の方が良いと思う。」

たっぷり5秒は間を置いてから江見さんはいかにも私の考えていたとおり、といった感じで頷いた。
「そうだね。焦ってするものではないし、私も部屋の中の方が良いかもとは思ってたんだ。」
江見さんは何度も頷く。
そして、じゃあ明日、夕食を食べにくれば良い。と僕に向かって言った。
江見さんの信じられない位に大きな家には一度行った事がある。
本当にいるかどうかは判らないけれど執事がいるような家だ。
ちなみに近くに牧場があってそこには羊がいる。牛もいる。
江見さんのお父さんはいかにも大人物、という貫禄たっぷりの人で、
しかしやっぱり江見さんのお父さんでその表情から僕に対する隠そうとしても隠し切れないとてつもない警戒心が丸見えで(「お友達。そうか、そうか。お友達。そうか。いや、桜が男の子を連れてくるなんて初めてで、私は嬉しいんだよははははは。」)、
僕は江見さんと同じようにそのお父さんの事も一発で好きになった。

僕の降りるバス停に向かってバスが減速する。
江見さんの方を見るとつい、と視線を逸らされる。
いつも江見さんは別れ際に何だか少し寂しそうにそうする。
そして僕に顔を背けながら、座ったまま「じゃあね。」と言う。

でも今日は違った。江見さんは僕と一緒に立ち上がった。
そして降り口の所まで一緒に来て、そっと僕の耳に口を寄せてきた。
「フェラチオ、楽しみにしてていいからね。」

シルバーシートに座っている90歳位のおじいさんが不思議そうに僕達を見た。
おっと、と江見さんが口を抑える。
嬉しそうに笑う。
ばいばい、と手を振ってくる。

地面に降りてから僕はバスに向かって向き直る。
僕も凄く楽しみにしてるよ。という風に笑って頷く。

そして今日の夜は絶対に江見さんからの電話には出ない事を心に決めてから、
僕は動き出したバスの中で勝ち誇った表情で僕を見ている江見さんに向かって手を振った。

電話で言い訳も出来ずに困り果てた明日の江見さんの表情が楽しみだ。と考えながら僕は家に帰る。
僕には少し計画があって、さんざんからかった後で、僕は江見さんの事を桜さんと呼びたいと考えている事を伝えるつもりだ。

僕の計算なら江見さんは小首を傾げるかもしれないけれど、今考えてますのポーズはしないでくれると思う。

きっと思い切りもったいぶった後で許してくれるんじゃないかなと思っている。





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by obtaining | 2010-01-07 19:35 | document