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スタンドアップ シスター 後編


<スタンドアップ シスター 後編>

「ああもう、話が進まないな。茉莉ちゃんだ。」
「は?」

「君の幼馴染の鍋島茉莉ちゃんだ。」
「はあ。」

実家の近所に住んでいる女の子だ。
少々勝気なところがあるけれど、かわいいし賢い、小さいころは良く遊んでいたのでなんだか良く出来た妹のような感じに俺は思っている。 この前涼子さんと実家の方に遊びに行ったときに一度会っているので涼子さんも茉莉の事は知っている。
が、それがどうかしたのか。

「それが何か。」

「うちの大学に受かったらしい。」
「嘘?」

自分で言うのも何だがうちの大学はちょいと難しい。
涼子さんが受かった時は才能と不断の努力の結果と称えられ、俺が受かった時は奇跡が起こったと長く語り継がれたそうな。

「嘘など言わない。」
「はあ。それにしてもなんで涼子さんがそんな事知ってるの?」
本来ならうちの親経由で俺にまず伝わりそうなもんなのだが。
と思いつつそう言うと、涼子さんはテーブルに肘をつきながら3時のデザートである手元の巨峰をひょいと口の中に放り込んだ。



「昨日家に来た。」
「は?」

「合格が決まったその足で昨日ここに来て、匠君をくれという趣旨の話をして行った、」
「は?」

「最初は緊張していて何の話なのかと思ったのだけどな。匠君を呼ぼうかと言ったら首を振るし。 ぼうと座っててもあれだから一緒に料理をしようと言って料理をしていたら 緊張もほぐれたのかぽつぽつと話し始めた。」

「はあ。」

「茉莉ちゃんは吹奏楽部だそうだな。」
「そういえばホルンやってるとか言ってた。」
「つまりはそういう事だ。」
ぽんと膝を叩く。

「あ、さっきの話か。え?その先輩って茉莉の事??そこに何故俺が?」
「まあ聞くといい。」
と言って涼子さんは座りなおした。お茶をくぴりと一口飲むと、もう一粒巨峰を口の中に放り込む。


「彼女はな、なんでも友達の恋を成就させる手伝いをした時に自分の初恋に気がついたそうだ。
ちょうどあれだ。私と匠君が実家に行って始めて私が茉莉ちゃんと会っただろう。その頃だ。」

「へえ。茉莉って案外と奥手だったんだな。」
ずいぶんと大人びていたから彼氏の一人や二人位いるのかと思っていた。

「…まあそうも言えるかも知れないが、ずっと一人の人を好きだったから
好きという感情に気がつかなかっただけかもしれないな。」
そう言うと涼子さんはじろりと俺を睨む。

「はあ。」
俺に何の関係が。
「しかし、彼女は自分のそういう感情に自信がもてなかった。その時好きかもしれないと思った人が物理的に近くにいなかったからだな。彼女は疑問を胸に抱きつつ、私はその人が好きなのだと心に強く思い続けていたとそういうわけだ。彼女は可愛らしいからな。異性からの誘いも多かったようだが、それも全て断り続けていたようだ。」

そこでもうひとつ巨峰を口に放り込み、もむもむと口を動かしながら涼子さんは続けた。

「まあそういったあやふやな気持ちというものは普通時と共に薄れていくものなのかもしれない。特に彼女のように人気のある子なら尚更だ。しかし、彼女は思い込みの強さと共に、思い込みを具現化させてしまう根性も持っていた。匠君は勝気なところがあると言ったがたしかにその様だ。彼女がその気持ちに気づいたのは一年程前だったそうだが、彼女はその気持ちにけりをつけるには彼の傍に行かなくてはならないと考え、それを実行に移した。
つまり東京にある、好きな人が通っている大学に行くことにしたのだ。」

「はあ。」
いくら俺でもそろそろからくりが読めてきた。


「しかし涼子さん、確かに茉莉とは幼馴染だけどそういった感情とはちょっと違」
「言い訳は後で聞く。」
「いえ、言い訳では」
「匠君がどのような粉をかけたかは後で聞くとして続きがある。誰譲りか判らないが、土壇場でメキメキと偏差値を伸ばした彼女に地元の教育大学でもと考えていた両親も教師も狂喜乱舞した。結果、彼女は東京に出てうちの大学を受ける事となった。」

「うん。」
「受験そのものは首尾よく終えた。合否は兎も角、全力を出しきったと彼女は思ったそうだ。 しかし落とし穴はその後待っていた。」
落とし穴かどうかはわからないが、と涼子さんは続けた。

「うちの大学からの合否結果が出る前、彼女が可愛がっており、そして彼女の事を慕っていた後輩が彼女の事を呼び出したのだ。それはそれは情熱を込めた見事な告白だったそうだ。」

涼子さんはぽんぽんと巨峰を口に放り込む。


「確かに彼女にとって意外な成り行きではあったそうだが、彼女はその後輩の好意には気がついていたらしい。そんな事もあるかなとは思っていたそうだ。しかし彼女は彼の告白に自分で考えていたよりも動揺した。さもありなん。そんなふうに男性からの数年越しの恋心を実直にぶつけられて悪い気のする女性がいる訳がない。と、彼女に言った私に彼女は首を振った。何故だと思う?」

首を振る俺に涼子さんは続けた。

「他の人からも告白らしきものをされたことは何度もあったらしいが、彼女は心を動かされなかった。それなのにその後輩に告白された時、彼女はひどく動揺したそうだ。そして今まではそんなに意識していなかったのが、その後はその後輩のことを良く考えるようになったと。それはいい。が、問題があった。その後輩に感じるようになった気持ちは匠君への気持ちとは全然違うく感じられるというのだ。」

「自分がだらしのない女なのではないかと彼女は悩んだそうだ。もし匠君へ感じていた思いが消え、同じような思いを後輩へ感じ始めたのならわかる。それなら残念だけれど自分は心変わりしてしまったのだと思える。しかしそうではない。自分は二人の人を同時に好きになってしまったのかもしれないと。匠君の事を好きなのに、告白の一つでそれが揺らいでしまうほど自分の心とは弱いものだったのかと。」

「そして彼女は、東京に来ようと思ったときと同じく、一つ決心を固めた訳だ。もし合格してたらうじうじと考え込まず、匠君に自分の気持ちを伝えてみようと。自分の気持ちがどうであるかをきちんと言葉にして確かめてみて、そして匠君に感じている気持ちを確認したいと。判るか、匠君?」


「はあ。」
そう言われても自分の記憶上の茉莉とその茉莉が上手く頭の中でマッチングしない。

「誤解を恐れずに言えば彼女の本質には男らしい部分があるのだろうな。匠君にはその場その場での勝気さしか見ていなかったのかもしれないが、彼女は目標に向かって障害を克服する強さとその目標に対する道筋を見つける大局観がある。」
私には欠けがちなものだな。と言いながら涼子さんは続けた。

「彼女は私にこう言った。匠兄さんに涼子さんという人がいるのは知っているし、それなのに匠兄さんに好きだと伝えようという私はきっと涼子さんに嫌われると思う。でも私は好きな人に好きだと言った事がないし、それに自分の気持ちを知る為にどうしても言わなくてはいけないような気がする。涼子さんに喧嘩を売るのは私なのだから、宣戦布告しに来たのです、と。」

賢い女の子だし、喧嘩も強そうだ。可愛いし素直だし。
言う事はないな。と涼子さんは言った。


「昨日は泊まっていくといいと言ったんだが、料理を造って一緒に食べたら新幹線があるとかで帰っていってしまった。ちなみに匠君にはこの話は内緒にしておいた方がいいかなと彼女には言ったんだけどな、彼女は頑なに私に遠慮などしなくて良いと言ってきた。私も私で好きなようにするから、涼子さんも遠慮なく私を叩き潰してくださいと、」
涼子さんは楽しそうに笑う。

「私もあんなに可愛くて賢そうなライバルは蹴落としておいた方が先々良かろうと思って
こう匠君にご注進している訳だ。」
そんな理由ではないだろう。涼子さんは涼子さんで何か判っている事があるのだ。

「まあ、あんまり心配はしていないのだけどな。」
涼子さんは最後の巨峰を摘み上げると、あーんと口の中に入れた。
「何で?」
口をもごもごさせながら涼子さんはふむ、と少し考えた。


「彼女に聞いてみた。匠君の事を考えた時と、その後輩のことを考えた時と、それぞれどういう風に思うんだ?と。」
「うん。」

「匠君の事を考えた時は、胸がドキドキしてゴロゴロと転がりたくなるような感じがするそうだ。」

涼子さんが言うのだから嘘ではないのだろう。
茉莉が言ったとは想像もつかないあからさまな言葉に顔が赤くなる。

「後輩の事を考える時は、いらいらとするらしい。頑張り屋なのに自信が無い所だとか、一緒に話していても他の男が彼女に話しかけるとすぐに何処かに行ってしまう所だとかシャキっとしていない所だとか。」

「…よく判らないんですが、それが何で?」
俺の言葉に涼子さんはん。と頷いた。
「ん。何ででもだ。」


これで話もお仕舞いだとばかりにカタンと涼子さんは立ち上がる。
お互いの空になった巨峰の皿を寄せて、剥いた巨峰の皮を手早く一つの皿に纏めた。

ま、ドラマチックな口説き文句の一つも言えない男に乙女心など判る訳はないな。
もむもむと巨峰を飲み込みながらそう言うと涼子さんは急に真顔になり、
俺の顔をじっと見ながらはあと溜息をついた。



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by obtaining | 2006-09-24 20:57 | document

スタンドアップ シスター 前編

<スタンドアップ シスター 前編>

高校生の時の話なんですけどね。
うん。そう。先輩に恋をした話です。
といっても僕は今も高校生な訳で、まあそう昔の話でもない訳です。当たり前ですよね。 よくあるんじゃないかな。こういう話。もてない男の。ありがちな。

まあ、少しだけ。



僕は高校に入学してすぐ吹奏楽部に入ったんですね。
吹奏楽で有名な学校ではなかったし、音楽室も狭い学校だったんですが、緑の多い敷地の広い学校だったので中庭や教室の窓を開けてのびのびと練習している風景が格好が良くって。で、まったく初心者の僕はトロンボーンをやることになったんですが、同じ金管のホルンパートの先輩にとても可愛い先輩がいたんです。

先輩は華奢で背が小さいんですが、結構大人っぽいちょっと癖のある長い髪の毛を揺らしていていて 活発で猫っぽい感じのする人で、そして良く喋る人でした。

はじめて見た時に、高校にはなんて綺麗な人がいるんだろうってドキドキしたのを覚えています。 吹奏楽部の中じゃ2年生の女子のリーダーをやっている人で、ホルンもとっても上手な先輩でした。吹奏楽部には同期の男が3人いたんですが、全員その先輩が部活の中で一番綺麗だねって噂をするような、そんな可愛くて目立つ先輩だったんです。


で、身の程知らずな事に、半年もたつうちに僕は結構真面目にその先輩の事を好きになってしまったんですね。
何でかって言うと、それには理由があってですね。

ほら、吹奏楽部っていうとなよなよしているイメージがありますけど。
でも実際は結構体育会系で礼儀作法とかルールにもうるさくて何か失敗すると3年生とかには酷く怒られたりするんですよ。

どんな事で怒られるかっていうと、一年生には色々と仕事があるんですけど、例えば合奏の前に空き教室でパート練習をやるんですが、その教室の鍵を先生に借りに行かなくちゃいけないとか、そういうルールがあるんです。

まあその場合、鍵は練習が始まる前までに取りに行かなくちゃ行けないんですが掃除とかがあるとどうしても遅れたり先生が捕まらなかったりするんですね。そういった時はそのパートの練習が始められないからすごく怒られるんです。

で、ある日僕が鍵を取りに行ったら、先生の職員会議が始まっちゃってて。
鍵が借りられなくなっちゃって途方にくれちゃったときがあったんです。

僕はそれまでは一度も鍵を借りられなかった事は無かったんで、どうして良いかもわからなくて。
で、もう練習始めてるパートは始めちゃっているし。どうしようどうしようかと思って。

怒られるのはしょうがないんですけど、職員会議が終わるまで借りられなかったらパートの全員が練習できないし。
入部して他のパートでもそんな事になった事無かったからとんでもない事になっちゃったと思って、でも皆が待ってる教室前に帰る事も出来なくて職員室の前をうろうろしていたのです。


そうやって10分ぐらいどうしようもなくパニックになっていたかな。怒られに帰ることも出来なくて。

そうしたら。
職員室の前にホルンを抱えた先輩が来たんです。てくてくと。

先輩は一人で、あれ?って感じに「仁科君どうしたの?」って聞いてきました。
一対一で話す事なんてなかったから緊張してたんですけど、もう天の助けだと思って職員会議が始まっちゃったんですって思い切って説明したんです。

そうしたら先輩は頷いて「なるほど。まかしといて。」って言って笑いかけてくると、そのまんまえいやっと職員室ドアを開けて屈んだ体勢で、職員室に入っちゃったんです。

何度か頭を下げながらいつもホルンの練習場所を貸してくれる先生のところに行って鍵を受け取った後、トロンボーンの練習場所を貸してくれる先生のところに行って頭を下げて鍵を受け取ると、屈んだ格好のまま笑いながら職員室から出てきました。

そして僕の手にぽんっと鍵を置いて「はい。鍵ゲット。」って言って渡してくれたんです。
カッコよかった。

それから先輩は一緒にトロンボーンの練習する教室まで来てくれて事情を説明してくれて、そして教室まで2人で行くその間に先輩は色々と吹奏楽部のことを教えてくれて、それから教室まで送ってくれた後、「バイバイ」って言って先輩は手を振ってにっこり笑いかけてくれたんです。


今考えてみれば先輩だっては高校2年生の女の子です。
後輩にちょっとお姉さんぶりたかったのかもしれません。

もう高校3年生になった僕はそんな風にも思います。でもですね。

その時のそれは、僕にはありえない体験だったわけです。
女の子なんて俺の事ウザがるか後は消極的に関わってくるかのどっちかですから。

僕に何かをしてくれて得意げに一生懸命話しかけたりしてくれない訳です。
それが、先輩はすげえ綺麗な人なのに僕が困ってた時、助けてくれたばかりかお礼を言う僕に
「いーよいーよ。一年生は大変だよねぇ。」とかいってそれから教室までついてきてくれて色々と親身に話をしてくれた訳です。

それから僕はもうずっと先輩の事が好きで好きでしょうがなくなった訳です。
もう本当に好きになっちゃった訳です。
もう寝ても覚めても先輩の事を考えた訳です。
いや彼氏とかは無理だろうなってのは判ってました。本当に。

先輩はにこにこ誰とでも話すし、吹奏楽部の中ではそれこそアイドル扱いだし。
3年生の先輩なんかも良く彼女に話しかけてる訳です。
時たま部活の前とかに部室の前でなんかイケメンのあれ。
なんか茶色い髪してカッコ良くてなんかもうよくわからないくらい同じ高校生じゃないみたいな人に声かけられて
なんか笑ったりしてるし。

今考え直してみると先輩に話しかけていたのはそんなにイケメンじゃなかったかも知れません。
凄いさわやかスポーツマンでも3年生の先輩は神のようにカッコよくは無かったかもしれない。
でも高校1年生と3年生じゃ体の大きさから違う訳です。成長期だから。
僕は小さかったし。態度だってそういう人たちはちゃんとしててカッコよく見えた。
そういう人たちと話している先輩は全然遜色ないどころか、なんかどっちかって言うとそういうカッコいい奴等が声をかけるのをいなすみたいにして
「じゃ、練習なので」なんて言ってたりするんですよ。
媚びたりキャイキャイ言ったりする訳ではないんです。


カワイイ。だけじゃなくてクールな訳です。
それに痩せ気味なのにとっても色っぽいんです。

とても暑いときに他の女の子にだらしないよ。
何て言われなても「部活だから内緒内緒。」なんて言いながら時々ワイシャツの上のボタンをちょっとだけ開いていたりすると、絶対そっちは見ないですよ。
見ないんですけどドキドキするわけです。

レベルが違うのはわかっていたんです。むろん僕なんて眼中にもないだろうと。
ただの先輩と後輩ですと。しかも違うパートの。
この違うパートってのが曲者で。吹奏楽の違うパートってのは結構顔を合わせないのですね。
練習場所が違うので。
もちろん合奏や帰る前のミーティングは全員そろいますが、そうすると人数も多くなっちゃうんです。
必然的に顔を合わせ、仲が深まる同じパートと違って違うパートの人とは一言も喋らないと思ったら喋らない訳です。

これが野球部だったら外野とキャッチャーが喋らないなんて事は無いのでしょうが。


でも先輩の事を考えるのはやめられなかったんです。
僕はそれまで女性と付き合った事はなかったからどうしたらいいのかは判らなかったけれど、
毎日先輩の事ばかり考えていたから無理なのはわかってたけど僕は先輩ともっと喋りたかったんです。

告白するとかは無理です。絶対無理です。

でも僕は先輩と少しでも話すととっても楽しくて、凄く先輩の事が好きで、どうしていいかわからなかったからでも出来るだけ先輩に話しかけるようにしました。

タイミングが合わなくて一週間も話が出来ない事もあれば、運良く話しかけれた事もあったけど、先輩は僕が話しかけるとちゃんと受け答えをしてくれましたし、冗談も言ってくれました。

僕は先輩が僕の前で僕に話してるってだけでそれだけでもう凄く楽しかったから、 だから部活を頑張る事にしたんです。
先輩に自信を持って話しかけるには部活の中に自分の居場所を持って、 自信を持って話しかけないといけないと思ったんです。例えば部活を休みがちだったら楽器の事とか聴きにくいけど、熱心に通ってたらそう言う事って聞きやすいとか、そう思った訳です。だから僕は僕なりに精一杯頑張った訳です。



そんなこんなしていくうちにいつの間にか僕は2年生になり、先輩は3年生になりました。
勿論何かが変わった訳ではなく、変わったとしたら先輩は受験生に、僕には後輩が出来たと、そのくらいでした。
でもとても楽しい毎日でした。
いつの間にか僕は色々な事を覚えていて、
職員会議が始まっていてもこっそり入っていって先生に鍵を借りる事が出来るようになっていましたし、
後輩に基礎練習を教えたり出来るようになっていました。
僕も少しだけ、成長していたのかもしれない。
部活に行くのが楽しかったし、時々先輩と話ができるのがすごく楽しかった。

そして2年生の夏休みに僕は吹奏楽部の2年生のリーダーになったんです。
つまり、3年生になったら部長か副部長になるという事です。
一学年25人からいる大所帯。吹奏楽部の目標は秋のコンクールだけじゃなくて、夏には野球部の応援があるし、地元のフェスティバルにも出ます。
3年生になったら、僕がそんな皆の代表になる事に決まったのです。

同じ学年の中には中学の時から吹奏楽をやっていた人達もいましたし、僕が誰よりも楽器が上手だった訳ではありません。
人の輪の中心にいる訳でもありませんでした。
でも先生や先輩達は真面目にやっていると言うことで僕を推してくれたそうです。
特に先輩が薦めてくれたと聞いてとても緊張しましたけど、僕はそれもとても嬉しかったです。

引継ぎや、色々な事務的な事もあって部活はとても忙しいものになりました。
でもそのお陰でその時には副部長になっていた先輩と一緒に色々な仕事をする事が出来たので
忙しかったけれどでもとても楽しいものでした。

僕はずっと先輩の事が好きだったから。



忙しくしているうちに、いつの間にか2年生も秋になって。

僕が吹奏楽部の部長になることに決まってすぐ、
先輩は高校を卒業したら東京の大学に行く事になりました。
勿論合格したらですけど、先輩の事だから合格するに決まっていると思いました。

受験シーズンがあっという間に始まって終わって。
僕はそのままでいいと思ったんだけど、でも、ようやく僕もそのままじゃ良くないと思いました。

先輩が卒業する前に僕は先輩を音楽室に呼び出しました。
「部活のことで相談したい事があるんです。」と言いました。

そうやって部活のことで悩んだときに色々と相談した事も沢山ありましたから
先輩はすごく忙しいにも拘らず「いいよ」って言ってくれました。



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そしてその日、僕は汗をかきながら通い慣れた音楽室への階段を登りました。
嘘をついて先輩を呼び出したとかそんな事は考えませんでした。
とにかく僕は言わなくちゃ。ちゃんと言わなくちゃってそう思っていました。
心臓をバクバク言わせながら階段を登りきり、
いつもよりとても長く感じる廊下を歩きました。

音楽室のドアを開けると、先輩は教室の真ん中机の上にちょこんと腰掛けていました。

教室の電気はついていなくて、夕焼けの光が薄く教室の中に射し込んでいました。

これでも随分と色々と考えたんですよ。
どうやって言おうかって。何度も何度も。
本当は教室に入って隣に座って「先輩、お話があるんです。実は・・・」って言おうと思ってました。

いつの間にか僕は先輩よりも背が高くなっていたから、
先輩が椅子に座っていて僕が立ったままじゃ怖がらせるといけないと思ったのです。



でも僕はドアの所に立って、先輩を見た瞬間に言いました。
「先輩の事が好きです。」と。
先輩は困ったようにうつむきました。
先輩は驚きませんでした。
まるで僕が先輩に何を言うつもりで教室に呼び出したか判っていたように。

俯いた先輩を見た途端、僕は駄目だなって思ったんですけど、でも言葉は止まりませんでした。
迷惑でもストーカーみたいでも、この5分間だけ、先輩に我慢してもらおうと思いました。

だってほら、もし万が一、先輩と付き合える事があったとしたら、
そしたらそれこそ毎日でも言える訳です。
僕は先輩の事が好きだって。
だから僕は思ったんです。今この時しか言えないんだって。
もう一生先輩にこういう事は言えないんだなって。

先輩に好きな人がいるかなんて、恋人がいるかどうかなんて関係ありませんでした。

会議が始まってしまって鍵が貰えなくて困っていた僕を助けてくれた事。
わざわざ遠回りしてホルンの練習している教室の前を通っていたこと。
合奏の時に、トロンボーンパートの前にホルンパートが来た時、
先輩の近くで演奏できる時、とても嬉しかった事。

毎日部活で先輩と会えてどれだけ嬉しかったか。
僕がどんなにこの2年間、楽しかったか。
どんなに充実した2年間を過ごせたのか。

毎日先輩のことを考えて、一生懸命部活に取り組んで、僕がどんなに楽しかったか。



先輩は僕の話をじっと聞いていてくれました。
そして聞き終わった後、一言だけこう言いました。
「仁科君、ありがとう。うれしいよ。」と。

「先輩は、僕が今日、こう言う事を先輩に言うって判ってたんですか?」
そう聞くと先輩は少し笑ってから、こう答えてくれました。

「だって君はもう部長だし、私に聞かなくちゃいけないことなんてないからね。」

僕は先輩も緊張しているんだと言う事に気がつきました。
先輩は緊張している時や大事な事を喋る時、こういう区切ったような話し方をするからです。
先輩はしばらく考えていました。

いつの間にか校庭から聞こえていたラグビー部の声は聞こえなくなっていて、
夕暮れが少しずつ暗くなって僕と先輩を暗い教室の中に閉じ込めていくようでした。
「うん。うれしいよ。私は君の事が気に入っていたからね。多分君が思っているよりも。
君はとても優しいし、とても頼もしい後輩だったし。」
先輩は顔を上げてでも。と途方にくれたような声で言いました。

「ごめんね。でも私は判らない。判らなくないんだけど、」
先輩は言葉を切って上手く言えない。と言いました。


僕はその時、僕は先輩を困らせているんだと気がつきました。
どうやって断っていいか、多分優しい先輩は判らないのだと。
どう話したら僕を傷つけないですむのか考えているのだと。

「ごめんなさい。」
僕は優しくて可愛くて綺麗で素敵な先輩に頭を下げて、それから教室に背を向けました。
「あ、待って。」
先輩の声が聞こえました。
僕は立ち止まりたいと思いました。
先輩ともっと話をしたかったのです。近くで。二人きりで。
先輩に僕の話を聞いて欲しかったのです。。
もう2度と2人で話す事なんてないのだろうから。

でも僕は、言いたい事は全て言ったから、先輩に背を向けて階段の方へと歩きました。
このまま先輩は卒業して東京に行きます。

僕は先輩のことだけじゃなくて、いつの間にか大好きになっていた吹奏楽部をもう一年間、
先輩に褒められたように一生懸命やってそれから、それから僕はどうしようかなと、





@@

「うん。で、その二人はどうなったの?」
正に佳境で話を止めた涼子さんは両腕を組んで黙り込んだので先を急かす。
この手の男の話は非常に身につまされる話でもあるし。

「どうするべきだったんだろうなあ。」
「は?」
涼子さんは暫く目を閉じた後、カッと目を見開いた。
「そこが問題なんだ。実は先輩には好きな人、いや好きだと思っている人がいたんだ。先輩は、どう返事すればよかったのだと思う?」

「はい?」

「その先輩と言うのが私だったら。」
うーんと言いながら考え込む。

「匠君が吹奏楽部にいたらパーカッションあたりかな。」
「??」
「こう、暮れなずむ夕日の中、私は教室で一人、待っているわけだ。そこでガラリとドアが開く。」

涼子さんは話しながらカラカラと架空のドアを開く真似をした。
「匠君が入ってくる訳だ、真剣な顔をして。そして少し照れながらも心に暖めていた思いの丈を私に伝えようとする。」

「??」

涼子さんはなんだかぼうとしている。
「いや、その時私には好きな人がいる訳だな。いや、良くないぞ匠君。そのような事を言われても困る。と断らなければいけないんだ。しかし私がそんな事を言ったら匠君は悲しそうな顔をするだろうな。私がいないと駄目なのだと、私に恋しているのだと切々と恋心を訴えてくるのだろう。
そこを心を鬼にして迷惑だといや、迷惑なんてことはない。断じてない。勘違いしてもらっては困る。しかし、しかし」
涼子さんは頭をぶんぶんと振った。

「・・・いや、むしろこの場合匠君がと仮定する方がおかしいのか。ああもう、話が進まないな。茉莉ちゃんだ。」
「は?」

「君の幼馴染の鍋島茉莉ちゃんだ。」

「え?」



続く
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by obtaining | 2006-09-23 23:37 | document

只今

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エジプト超暑かった。あそこはアフリカです。
でもピラミッド超でかかったぜ。マジで(=゚ω゚)


忙しいですが、何とか落ち着いていきました。
精神的に色々と疲れましたが、新生活も新しい職場にも何とか慣れてきました。
そろそろ趣味にも戻りたいです。



link更新
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(=゚ω゚)ノ まくらカバーソフトさん

(=゚ω゚)ノ STARWORKSさん


holidays in the sun_spin-off更新

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(=゚ω゚)ノ 相談天国 更新

ご意見ご感想は↓
  


一ヵ月後までになんとか1話更新できるかなと
(=゚ω゚)
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by obtaining | 2006-09-18 21:22 | diary