ペルソナ4 直斗 SS その2(終わり)

まず、落ち着いて考えてみよう。

こ、こ、こう云う時に冷静に考えずして何が探偵か、という話なのだから。
こ、こら、落ち着くんだ。僕ならできるはず。

うふふふふ。
笑うな。しかもそういう含むような笑い方はよせ。
今まで僕自身が一番嫌っていた事じゃないか。そういう事は。

冷静に。冷静に。

はあ。
ま、まずは事の発端、ほ、発端から考えてみよう。
きょ、今日も先輩は僕の事を誘ってくれて、そして僕達は怪盗Xの行方を追った。
商店街で噂を聞きつけ、怪盗Xがいるであろう場所についてピンと来た僕は先輩を連れて
神社へと向かった。
時刻は夕方で、真っ赤に染まった夕暮れが西の空に沈もうとしていた。
そんな中を僕と先輩は走った。

そして僕達が駆けつけた神社にはなんと予想通り怪盗Xと思われる人影がいたのだ。
当然僕達は怪盗Xと思われるその人物に声を掛けた。
すると驚くべき事に怪盗Xと思われる人物はナイフ状のものを取り出したのだ。
そして僕のほうが怪盗Xに近い距離にいた為、必然的に怪盗Xは僕にナイフを向けた。
しかしそれを見た瞬間、僕には判った。怪盗Xの持っているこのナイフは僕が昔作った探偵秘密道具の一つであると。
怪盗Xは恐らくこれを神社に隠そうとしていたのだろう。
で、あれば恐れる事はない。あれはナイフ状のものではあるがナイフとしての機能はない。
そうであればあれは武器とはならない。取り押さえられるはず。
しかし僕が一歩踏み出そう。そう思った瞬間、怪盗Xに向かって先輩が立ちはだかったのだ。
僕を守るように。
僕を背中で包み込むみたいに、とても頼もしい背中が僕を守った。
背の高くて、逞しくて、僕はまるで先輩に抱えられてるみたいに
じゃない。
非常に危険な行為だった。
無論、あれはナイフではない。しかしそんな事は先輩は知らないのだ。
無謀、蛮勇、そういった類と取られても仕方のない行為だ。

あれを本物のナイフだと仮定した場合、先輩の取るべき行動はナイフから距離を取る事だ。
あの場合、まず怪盗Xの攻撃が僕に向かうことが想定できる。
であれば先輩はまず距離を取り、僕が攻撃される、されないに関わらず警察を呼ぶ、
若しくは自らの身を守るという次の行動を起こすべきだった。
こんな事はマヨナカテレビの中であれ程までにリーダーシップを発揮する先輩ともあろう人が、
取ってはならない行為だ。
リーダーシップとは仲間を守る行為ではない。似てはいるが非なるものだ。
リーダーシップとは目的を、最小限の犠牲で達成すると云う事なのだ。
であればあの時点で先輩があのような危険なまでに怪盗Xとの距離を詰める必要性は無かった。
寧ろ距離を取って、次の事態へ備えるべきだったのだ。

しかし、最悪の事態にはならなかった。
怪盗Xは先輩の勢いに押されるように後ずさり、ついには逃げ出したのだ。

暫く怪盗Xの行方を眼で追った後、先輩は僕に向かって大丈夫か。と言った。
大丈夫じゃなかった。
すごく、カッコいい。でもそうじゃない。
推理小説の主人公みたいなそんなカッコいいじゃなくてもっと胸が温かくなるような。
僕の前に立って、僕だけを守ってくれ
じゃない。
正直言って僕はがっかりとした。
どうせならもっと長い時間
じゃない。
先輩の非常識な行為にだ。

当然僕は先輩に苦言を呈した。
幸いあれは本物のナイフではなかった。
しかし本当のナイフだったらどうするのかと。
先輩が刺されでもしたら僕はどうしたら
じゃない。
目的のためにどう動くべきだったのか。
先輩の行為は危険なだけではなかったのか。
何故あんな事をしたのか。

すると、しばらく先輩は黙った。
そしてゆっくりと僕の顔を見た。
夕暮れが終りかけていて、徐々に神社はその色を深みのある赤色から落ち着いたオレンジ色に変えかけていた。
商店街の喧騒は何も聞こえなくて、その代りにどこからか狐の鳴く声が聞こえた。
少しだけ風が吹いて、落ち葉がかさかさと鳴った。

「直斗が好きだから。」

そして先輩は僕に向かってそう言ったのだった。

当然のことながら僕は混乱した。
パニックに陥ったと言っていい。
想定外の事態だった。
当然、この際だから言うけれども夢想しなかったと言えば嘘になる。
プロ野球選手になってホームランをかっ飛ばす夢を見ない子供がいるだろうか?
そういうレベルで、夢想した事はある。
しかし、現実で起こり得ないから夢想なのだ。
突然、ドラフト1位に掛かりましたと言われたら子供だってパニックになるだろう。

僕は慌てて、パニックになって、しどろもどろに先輩に何かを言って、
そして走って逃げてきて、今家で膝を抱えていると、そういう訳だ。

落ち着いて考えるべきだった。
客観的な事実をここで並べたい。
先輩はこう言った。
「直斗が好きだから。」

この言葉から客観的に、事実のみを取り出すと
これは先輩が
僕の事が、好きだ。
という事になる。

この言葉に関連があるかどうかまで断言は出来ないけれど、
先輩の過去の言葉も補足しておくべきだと思う。
「直斗が女で嬉しい」
この言葉を客観的に見て事実のみを取り出してみると
これは先輩が
僕が、性別としては女性である事が、嬉しい。
という事になる。

時系列順に並べると
先輩は、僕が、女性である事が、嬉しい、かつ、僕に好意を持ってくれている。
と読み取る事が可能だ。

好意を持ってくれている、だけでは仲間として、友人としてという側面からと考えられる。
いや寧ろそう考えるべきだ。
しかしここに補足条件としての女性で良かった。と言う部分が加わると。
これは何か重大な事を示唆していると受け取っても良いのかもしれない。

つまり、先輩が、僕の事を女性として好意を持っている。
つまり、その、こう云った事の常として男女としての交際を前提としてのその、こ、告白、という形であった
と受け取っても

何か見落としてないだろうか。
そうか。
それぞれの言葉を言葉としてだけ受け止めてしまうのではいけない。
それぞれの言葉が発せられた状態というものもそこには加味されるべきだ。

まず、「直斗が女で嬉しい」
これは僕が気安くも先輩に対して男に生まれれば良かったと思っているなどと
打ち明けてしまった後の先輩の言葉だ。

男に生まれれば良かった⇒女で嬉しい。
図にするとこう言う事だ。

今回の事はどうだろう。
何故危険な真似をしたのか。⇒直斗が、好きだから。
こ、こ、これも図にするとこういう事だ。
ただ言葉だけを並べると、た、確かに先輩が僕の事を女性として好意を持っているという可能性もある、
けれどこうしてみるとその状況、状況で先輩は僕の事を後輩、仲間として見ているという気もしてくる。

でも、でもそうだったらああいった言い方をするだろうか。
しないんじゃないかな。
やっぱり、仲間だから守った。とかそういう言い方をするんじゃないかな。

じゃあやっぱり。

・・・
でも、天城先輩や里中先輩、久慈川さんなら判る。
何故なら彼女達は女性に見えるからだ。
僕の場合、どうなのだろう。こんな、学ランを着て男のような格好をしている僕の場合。
その、例えばありえない事だけれど巽君なんかが女性に生まれれば良かった。
こんな事を先輩に言ったとしたら先輩はこう言うんじゃないだろうか。
「完二が、男でよかった。」
そして、男同士だと今回の件も「○○の事が好きだから。」
こんな風に言っても友情として変ではないのかもしれない。

駄目だ。
どうしても結論が出ない。

先輩も、良くない。情報が少なすぎる。
せめて『女性として』好きなのか『仲間として』好きなのかはきちんと言葉にして言うべきじゃないだろうか。
その、例えばこういう時には便利な言葉がある筈だ。
あ、あいしてい、いるとか。

・・・そもそも先輩を責めるべきじゃない。
全て、僕にある事だ。

巽君とかに聞いてみるべきだろうか。
幸い携帯電話の番号は知っている。彼に事情を話せば、有益な情報を貰えるかもしれない。

いや、やめておくべきだろう。
勘違いであった場合、迷惑を掛けることにもなりかねない。

暫くぼうとそんな事を考えているうち、
ふと壁に掛けた学ランに目がいった。
男物の、僕の身長に合わせた学ラン。
そ、そういえば学ランだけでなく女子用の制服も一応、一応持ってはいる。
学校に通う際、一度は悩んだもののやはり着慣れた学ランの方に決めて以来、
袖を通した事は無いのだけれど。

き、着てみようか。
絶対に、着ないとは思っていたけれど、その、今後着る機会がないとは言い切れないかもしれない。

気分も変わるかもしれないし。

そうと決まれば早速部屋着を脱ぐ。
暫く考えた後、胸に巻いたサラシも外す。
姿見に向かって全身を写してみる。
身体は、その、女の子の身体だ。
胸とお尻が大きくて、ウエストがくびれている。
ちょっと女っぽ過ぎて自分の裸は好きじゃなかった。
文化祭の後のお風呂で見た天城先輩、里中先輩、久慈川さんとそう変わる訳じゃない。

思っていた以上にその、胸が大きくなってしまったけれど
そう変じゃないとは思う。女性としては。

押入れから女子用の制服を取り出して身に付けてみる。
スカートというのは両足をいっぺんに入れられる、
などという当たり前の事に気がつく辺り僕はやはり変なのだろう。
千鳥格子柄のスカートを腰で留め、ブラウスを身に纏い、リボンを付けて上着を羽織る。

それから再度姿見の前に立った。
鏡に映る姿。
髪は短いけれど。肩の線は細いし、
スカートから伸びる足も、まあ、うん。
女の子には、み、見えると思う。

笑ってみる。
はあ。鏡の向こうに溜息を吐きたくなる位のぎこちないそれ。
少しウェーブのある髪の毛に指を這わす。
もうちょっと、髪は伸ばしたほうが先輩の好みだろうか。

あ、と思い出して机に向かう。記憶を手繰って引き出しを漁り
リップクリームを取り出す。

色つきのとか、あったかな。
暫し考えた後、首を振る。今度買っておいた方が良いかもしれない。

ふと気がつくといつの間にかくすくす。と僕は笑っていた。
馬鹿みたい。馬鹿みたいだ。
でもそんなに変じゃない。

笑いながらリップクリームを塗った。

怪盗Xの目的は、何となく判っていた。
怪盗Xはきっと、僕が子供の頃持っていた気持ちを取り戻して欲しい。
もしかしたらそんな風に思っているのだろう。

怪盗Xは僕が子供の頃に比べて何かが悪くなったと、そう心配したのかもしれない。
そして多分、その通りなのだろう。
ここに来た頃の僕は、そうだったのだろう。
何かが悪いほうに変化していたんだ。

そして僕は今。きっと又違うように変わっている。
これだって凄い変化だ。
このままじゃそのうち、僕は自分の事を私、なんて云う風に言い始めるかもしれない。

変化にもきっと、悪い変化と良い変化があって。
これは良い変化なんだろうか。
判らない。
きっと僕は明日も学ランを着て、学校にいく。
行って、先輩に会う。
先輩と一緒に怪盗Xの正体を突き止めるんだ。

そういったことにワクワクするのはきっと止められなくて。
でも。
先輩は言ってくれた。

「直斗が好きだから。」

「私も先輩が好き。」
あはは、言えそうに無いや。

でもそういう想像は嫌では無かった。
思いっきりおめかしして、スカートを履いて、先輩と手を繋ぐ。
本当にそんな事をしたら思い切り照れてしまうだろうけれど、
想像の中だったら自由だ。
どうせだからこの際思いっきり。

ちょっと髪を伸ばして、二人でお出かけをして。
本屋を覗いて、だいだらのおじさんに挨拶して目を丸くされて。
行儀悪くコロッケを買い食いしながら色んなお話をして。
最初は照れたりするかもしれないけれど、もうその頃には平気だ。
もしかしたらからかわれたりして、二人で笑ってしまう。
なぜならとっても楽しいからだ。

神社の境内に二人で座って、色々な事を聞いて、話して。
そしてこう伝えるのだ。

僕も先輩が好きです。と。

良い変化なのか、悪い変化なのかは判らない。
でも、もしそう変われたら、僕は素敵な事だと思う。




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by obtaining | 2008-10-07 23:17 | document

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