生存証明及びブラックラグーンもの

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自分自身に嘘がつけない。という性質は言葉にすれば中々イカしてはいる。
上々に、と言い換えても良い。
こういうイカした言葉は弁護士とか政治家とか、そんな奴らが使うべき言葉だ。
内側はともかく、外面はお上品な奴らが葉巻でも吹かしながら一般大衆って奴らに聞かせる御託だ。

しかしだ。
じゃあ、ロアナプラに住んでる奴らには全然関係がねえか、って言うとそんな事は無かったりする。
自分に嘘がつけないってのは実は優秀なガンマンにこそ必須の条件だからだ。
ここじゃ自分に嘘がつける奴は大抵早死にするからだ。
多分弁護士や政治家は自分に嘘をついても死にはしないだろうが、ガンマンは死ぬ。
(奴らお得意の政治的に死ぬってのは置いておいてだが)
より切迫した状況で正直者でいなきゃならないってのは、どっちかっていうとガンマンの方だろう。

もう一つある。
私もそうだし嘘がつけない奴ってのは大抵そうなんだが、想像力の無い奴が多い。
幸いな事にこれもガンマンには必須だ。
もしこうだったら。なんて事を考えた瞬間に頭が吹っ飛ぶ世界じゃあ、
明日の事を考える想像力が無いってのもガンマンを長生きさせてくれる必須条件になる。
ま、こっちは弁護士や政治家に必須なのかどうかまでは知らないが。


例えばこういう事だ。お前がガンマンだとする。
別段やる仕事もねえある日、いつも通りに昼間から酒場に行こうとしたとする。
汚ねえアパートを出たその瞬間は、お前は酒場に行く事を心に決めていた。

そこでふと思いつく。
何でもいい。
「今日は行くのがめんどくせえな。」とか、「そういや買い物があったな」とかなんでもだ。
あるいはもっと鋭く何か嫌な予感がするって思うときもある。
何にも考えずに酒場に到着した時はいい。
でも行く途中にそんなくだらねえ事をふっと思いつく。

大抵そういう時は何かあるんだ。
例えば後100mも歩いたら賄賂を渡してある警官に偶々出会う。
そいつはいつもニコニコしてやがるのに今日は何故か目を泳がせていたりする訳だ。
深刻なトラブルって奴だな。
他にもいくらだってある。
例えば今週一緒に何かの仕事をしたばっかりって奴が誰かに何か良くない事を吹き込まれて手ぐすねひいて待ち構えていたり
先週ちょっとトラブった奴がDEAD or ALIVEでこっちの首に1万ドルも掛けた直後だったりする。
最悪の時には青ざめたアラビア人が月まで吹っ飛びそうなダイナマイトを膝に抱えて震えながら最後の酒を飲んでる事だってある。
そんなのが全部いっぺんに来る事だってある。

つまり、舞い込んできた金にならない深刻なトラブル達って奴だ。
お前が労働中毒者なら良いだろうが、休日には余暇を楽しみてえって人間ならお断りの事態だ。




お前が自分に嘘をつける奴だったら酒場への道でこう考えるだろう。
「考えすぎだ。俺は今、酒を飲みたいんだ。」
頭の中は今日浴びる酒の事で一杯だ。想像力の豊かな奴はこういう所ででも損をする。
得かもしれないけどな。
まあ、そう言って酒場へとお前は向かう。
そして深刻なトラブル達って奴と正面から仲良くする羽目になる。


お前が自分に嘘のつけない奴ならこう考えるだろう。
「酒場に行くと決めて家を出たけど、今日はやめよう。」
シンプルにそれだけ考える。
そして家に帰ってまた寝るか、ママお手製の買い物バックを抱えて買い物に行くのさ。

そしてどうなる?
結果は大抵、思ったとおりになる。
まあ、私が今まで見てきた範囲内じゃ、大抵そうなる。
生き残るガンマンにとって、たまにある酒場でのじゃれ合いなんざ深刻なトラブルのうちには入らない。
本当に深刻なトラブルは、事前になんとなく回避するからだ。
自分が起こしたものでない限り、
本当に深刻なトラブルは家にいる間におきるかショッピングセンターでアイスクリームをなめてるうちに起こるものだ。
ま、アイスクリーム以外のものを舐めてたっていい。



そういう訳で自分に嘘がつけないってのは私にとっちゃあ都合がいい。
私が生きている理由も、まあ大体はそんなもんだろう。
そして生き残るガンマンってのは臆病者か優秀かのどっちかで、私は臆病者じゃない。
それで充分だ。

しかし。

しかしだ。
自分自身に嘘がつけないというのも想像力が無いっていうのも
撃ち合いじゃ必須の能力だが、都合の悪い時もある。
ごくたまに、ごくたまにだが。

そして、現在のこの状況では非常に問題があると言わざるを得ねえ。



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「レヴィ。」
なんて事をぼんやりと考えていると、目の前でなんだか不機嫌そうな声がした。
ゆっくりと目を前に戻す。

「なあレヴィ。」
「なんだよ?」
予想以上にラムが利いているらしい
酔っ払って完全に目が据わっているロックを前にして、しまったなどといまさら思っても遅い。
私の顔は、今限りなく赤いからだ。現実逃避するほどに。


「レヴィが言ったんだぞ。ポーカーで負けた方が脱ぐって。」
そしてロックは目の前のグラスをゴッゴッと傾ける。
完全に出来上がってやがる。
私か?
酔いなんかとっくに醒めちまってる。
この問題、目の前の人間を殺せば解決するような、しないようなと冷静に考えている所だ。


「確かに言ったさ。そしてお前の手は3カードで、私のはブタだ。
だから脱ぐって言っただろ?」
「そう言ってる割に、もう5分もシャツに手をかけたままじゃないか。」
「うるせえな。準備ってのがあるんだ。ちょっと待ってろ。」
じゃないと叩き殺すぞ。



「待つのはいいけど。」
目の前のロックは今が死と生との境目とも知らずにのんびりとラムを呷っていやがる。


そして私はこいつを睨み付けながらシャツの裾を握り締めて真っ赤な顔をしてるって訳だ。
ガンマンとして自分に正直であるかどうかを考えながらだ。

なぜこんなことになってんのか私にもよく判ってはいない。
想像力が無かったからか、それとも自分に正直でないからか。

それとも自分に正直だったからか。

多分それのどれかだ。


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発端はこうだ。
バラライカの姉御の仕事でロックが東京に行くとダッチに聞いたのが今日の昼だった。
そしてロックが発つのが明日。
急にも程がある話だがまあ良くある話だ。
その話自体はどうでもいい。
撃ち合いじゃなけりゃ自分の仕事じゃねえし、日本なんか行きたくもねえ。
ましてや姉御と一緒なんて冗談じゃない。
普通ならどうぞ行ってらっしゃいでそれで終わりだ。
しかしその時ダッチが言いやがった一言が引っかかった。
「ロックも里帰りがしてえだろう。」

ダッチが言いたい意味はわかる。
逃げちまえって意味だ。
正式に言えば逃げちまえとも違う。
ロックは仕事を終わらせてからバラライカの姉御にこう一言言うだけでいい。
「俺はちょっと残るよ。あんたらは帰ればいい。またな。」
あとはどうにでもなるだろう?
誰かに何かを借りてるってんなら話は別だがそうでなきゃわざわざ探す奴なんていやしない。
ダッチだって探さない。


ロックにこの仕事をさせるっていうのは最初からそれでいいって事だ。
丁度良く航空運賃もバラライカの姉御持ちだ。仕事が終われば報酬はダッチに振り込まれる。
ますます都合が良い。

そういう事だ。
オールオーケー。万事問題なし。


まあそういう訳で何の問題も無い訳だが、
私はその日何故だかダッチと口を利く気にもなれず事務所を飛び出して、
夕方、バカルディをしこたま抱えてロックの部屋を訪ねたって訳だ。
何故だか考えたが、やっと思いついた。
自分に正直であるってのは生き延びる手段だ。いつでもガンマンは自問自答を忘れちゃいけない。

何故だ?少しは一緒に仕事をした仲間だからだ。
まさか名残を惜しむ訳じゃないが会った時と同じように飲み比べてもいいかなと少し思ったからだ。
そして私は思った。
少し騒いで、それでおしまいにしてやるか。と。



2人でしんみり飲むのも味気ねえ。
ポーカーでもやって負けた方が脱ぐなんて事を約束したのは
そうでも言えばロックの野郎、びびるだろうと思ったからだ。
そう考えた。
あいつ、目を白黒させるだろうな。
やるんならイカサマは無しだ。
まあ私が勝つだろうが、そうしたら散々笑ってやればいい。
あいつの裸なんて見てもしょうがねえから買ってやったってのにあいつが意地でも着ようとしやがらねえアロハを着せて笑ってやる。
私が負けたらパーッと脱いで目の保養をさせてやる。
そう思ったんだ。

きっとあいつは顔を真っ赤にして服を着ろなんて私に言って怒るだろう。
ひとしきりあいつをからかったら
「じゃあなロック。気をつけろよ。」
ってそう言って帰れば良い。出来れば夜の早いうちに。

別れの挨拶にはこれで十分だ。
あいつはアホ面でごきげんよう、また来週なんて言うかもしれないが。
ま、この世界じゃ交わした約束と守られた約束の数が釣り合った例がない。
守られない約束だからって怒る筋合いでもない。
そう思った訳だ。私は間違っちゃあいないだろう?


@@

で、自分に嘘がつけないって事態に今、私は追い込まれている訳だ。
詳細は略す。私の手がブタだった。それだけだ。
で。
何でたかがシャツ一枚脱ぐのが恥ずかしいのか、それぐらい私にだって判る。
ガンマンは、くそ、誰だこいつにラム飲ませたの。私か。

ちくしょう。やってやる。
覚悟決めろよ。終わった後、ガンが弾切れ起こすまで撃ちまくってもいいから今だけは覚悟を決めろ。
ぐっとシャツを握る

「よし。ロック、私は嘘はつかねえんだ。仕事で必要のあるとき以外はな。」
そう言ってばっとシャツを捲り上げようとしたその瞬間、黙って私を見ていたロックが口を開いた。

「冗談だよ。」
一瞬躊躇する。
その瞬間気力が萎えるのを感じた。力を入れて青ざめた顔が又火照ってくるのを感じる。
胸の下まで捲り上げたシャツをいそいそと戻す。馬鹿か私は。
殺すぞロック。



「冗談だよ。レヴィ。そんな事、しなくていい。」
女の子がそういう事しちゃ駄目だ。しかも男と二人っきりなのに。
ロックはそう言うと、言葉を続けた。
「そうだ。罰ゲーム代わりにもう一杯ラムを作ってくれよ。俺の前で。」
レモンも冷蔵庫にあるから。そう言って空のコップを振る

でもラムじゃ締まらないな。こういう時、日本じゃお酌してくれって言うんだ。違うかな。
まあ、罰ゲームならそれでいいよ。そう言ってロックは笑う。
その瞬間、昔見た映画を思い出した。

インチキくせえ映画だった。
日本のヤクザが出てくる奴でお得意の銃撃戦とやたら時代がかった台詞の奴だ。
くだらねえ映画だったが、印象に残ってる事が一つだけある。
日本人のヤクザが、つっても実際は中国か香港の奴だろうが家に帰るとそいつの妻が玄関で土下座して迎えるんだ。
妻だけじゃねえ、小さい子供までちんまりと土下座してやがる。
日本人は不思議な事しやがると思って大笑いしちまった。
それから場面は変わって広い部屋の中央でその女がヤクザが持ってるなんだかやたらと小せえグラスに酌をしてやってる。
そしてヤクザの左手はその女の胸元に差し入れられてゴソゴソやってるってそんな場面だ。

ふと考えた。
こいつも家じゃ父親が帰ってくる度に土下座してたんだろうか。
こいつに女が出来たら、その女はこいつが帰ってくる度に土下座するのか。
そんな事は考えも付かない。
なんで土下座するんだ?
そもそもなんでこいつら部屋の中で靴脱ぐんだ?


例えば、もし例えば私がこいつの女になったら
私は部屋で靴を脱ぐんだろうか。
家に帰ってくる度に土下座するのか?
治安が良いとかいう日本に住んで。
治安がいいなら殺しもやめだな。こいつ、稼げんのか。
ああ、でもビザが取れねえか。それに寒いらしいな。日本ってのは。
じゃあロアナプラか。代わり映えがしねえな。でもここなら仕事がある。
私が稼げるし、なによりも寒くねえ。

ぼんやりと考える。
私はその考えが、なぜだか奇妙に甘ったるいものに感じられた。
ウイスキーボンボンを死ぬほど食った時のように、口の中がにちゃにちゃとしやがるような、そんな。

「レヴィ?どうした?ラムを作ってくれよ。」
突然耳に入ってきたロックの言葉に背筋がぞっと総毛だった。
自分の考えていた事に衝撃を受けて思わず飛び上がりそうになって、私は頭を振った。


「ああ、それでいいんだな。わかったよロック。」
馬鹿か!
あまりの事に吐き気さえしてくる。
何を考えている?
それは死を覗く行為だ。
死への近道だ。少なくとも私たちにとって。
考えるな。
想像力のある奴が生き残った試しなんてねえんだ。


少なくとも私の生まれ育ったストリートじゃ、出世の道といえばギャングか娼婦だった。
あら奥様、お宅のお嬢様、モットストリートで客を取ってるそうじゃない。立派ねえ。
あらいやだ、うちのなんてまだまだですのよ。
お宅のジェシーちゃんみたいに表通りでお客をとれるように頑張ってもらわなくちゃ。
ロックとは明らかに違うだろう?な?
どっちが良くて、どっちが悪いとかそんな事も関係ねえ。
違うって事その事が大事なんだ。
私はそのことを知ってる。自分に正直であることは大事だぜ?
私はそのことを知ってるんだ。

口を開け。弾丸みたいに叩き込め。
じゃあな。ロック、気をつけろよ。そして背中を向けろ。一杯作って出て行け。
それで貸し借り無しだ。
こいつはうまくやる。バラライカと一仕事してはいさよなら。後は幸せに行けよ。
さあ叩き込め。
2丁拳銃は伊達じゃねえって所を見せろ。



冷蔵庫に向かってた足をぐるりと廻す。
「やっぱ止めだ。ラム作るぐれえで罰ゲームだぁ?ロック。レヴィ姐さんを軽くみるんじゃあねえよ。」
私は何を言おうとしている?
「よし、判った。じゃあ代わりにわ、私がついてってやるってのはどうだ?明日から。用心棒って奴だ。」

「は?日本に?なんで?」
「なんでって・・お前、そりゃ、、そりゃお前が危ないからに決まってるじゃねえか。
 酒を作るなんかよりよっぽどお前の為になるだろ。」

「危ないって、日本だよ?バラライカさんも通訳だけって言ってたし。レヴィ日本語しゃべれないだろ?」

「おまえ、馬鹿か?姉御の仕事だぞ。お前お得意の楽しいビジネスの話で終わるとでも思ってるのか?」
姉御なら東京にもう一回落とすぜ。でっけえ爆弾をだ。と畳み掛ける。
もう自分が何を言っているのかは判らなかった。

「・・・確かに。でもレヴィ、休暇だって言ってたろ。酒浸りになってやるって。
それにレヴィの分は給金、出ないぞ多分。」

「あーーーうるせえうるせえ!うるせえな。ゲームに負けたのは私だ。
 勝ったのはお前だ。嫌ならついていかねえよ!」

「嫌とはいってないけど。」

「じゃあ、他にはねえのかよ。酒作るだけでおしまいなんて許さねえぞ。」

ギロリと睨み付けるとロックは笑った。
「そうだな。日本にいる間はスカートを穿くってのはどう?」
出来れば短いのがいいんだけど。と言って目の前のロックは笑った。
酔ってやがる。
私はなんだか口元が緩むのを感じた。明日から東京だ。
どうやって潜り込もうか。日本にまともな銃はあるのか?

「スケベ野郎が。じゃあ明日からあのメイドみてえにマスターと呼んでやる。
 その代わり帰ってきたらてめえこそアロハを着ろよ。」
又ロックが笑った。よく笑うな、こいつ。

日本まで、日本までだ。仕事を終わらせたら、ロックに言ってやる。
言ってやるまでもねえ。ロックが言うだろう。
「俺はちょっと用事があるんだ。じゃあなレヴィ。先に帰れよ。俺はちょっと残るよ。」

まあそれも悪くない。
アロハの約束は守られないだろうが、
この世界じゃ交わした約束と守られた約束の数が釣り合った例がないって奴だ。気にする事じゃない。
それまで私がお前の銃になってやろう。
ガンマンとしてだ。
無論、ガンマンとして。




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by obtaining | 2007-01-01 15:22 | document

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