<相談天国/後編>

<相談天国/後編>

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ふう。力一杯殴られないとわからないというのはどうかと思うぞ。
知っているか?匠君。
そうやって女性が嫌がっているのにそういうことをしようとするのを世間では性犯罪とかセクハラとかいうのだ。
幸い私は匠君のことを訴え出たりはしないけどな。
匠君も私ならいざ知らず知らない人とかほかの人にそういうことをしてはいけない。
というかこれから電車やバスに乗るときは両手をあげておけ。良いな。

ん。返事だけが立派では困るぞ。
じゃあ話の続きだ。ほら正座だ正座。蜜柑に手を伸ばすな。こっちを向け。
んん。いくぞ。



まず、人と人が付き合うにおいては自然とそこにルールというものが生まれる。
つまりは法というやつだ。これは別にあれだ。国家の法律とは違うぞ。
ある意味国家の法より厳格でなくてはいけない。
匠君が私の家に遊びに来ない時には夜の10時頃に電話をするとか、 学校の上がる時間が一緒のときは図書館前のカフェで待ち合わせをするとか、買うCDが重ならないように買いたい新譜は前もって言っておくとかそういう二人のルールというやつだ。
文書化はされていないが勝手に破ると片方の機嫌が斜めになったり不都合なことが起きたりするのだ。

人間関係のルールは小さなことと侮ってルール破りをするととても良くない事になるのだ。
わかるな?


無論私と匠君の間にもある。
ここで気をつけなくてはいけない。
このルールの怖い所はいつの間にか改版されたり追加していたり削除されたりしているということだ。 それも二人とも気づかない間にだ。
特に二人の間に何か特別な事があったときにはそういう事が多いような気がする。
普段は気づかないままにそういう事は自然と二人の間で決まっていってしまうものなのだな。

しかし。
しかしだ。その些細なルールの追加や削除、改定が二人の間に誤解という形で大きな影響を及ぼすことがある。私の友達も良くそのことで悩んでいたものだ。彼氏がもてすぎて困るとか、野暮天で困るとか、そういうことでだ。

つまりだ、こういうこともお互いきちんと前もって取り決めておくべきだと私は思う。
雰囲気で、なあなあでなどという向きもあるかもしれないが私はそこはきちんと決めておきたい。 後顧の憂いをなくしたいとかそういう後ろ向きな気持ちでではないぞ。
こういうことがあってもお互いの関係になんら変化無く、いや寧ろ以前よりも仲良くなりたいのだと言う事を前もってお互いが口に出し、変わるのであれば前向きに変わっていこうという信念を持ってだな。



む。
ほら聞け。横を向くな。まだだ。まだ。 匠君は普段は良い子なのにこの話しになると途端に集中力が無くなるのは良くない。 そわそわとするな。

文句を言うな。大事なんだきちんと聞け。
大体がだ。私だって女の子なんだ。
このような話題を自ら口になどしたくない。花と恥らう年頃なんだ。
実家で父親や門人の方がこういう品のない話をした時など両手で顔を覆って逃げ出していたくらいだ。
それを匠君の希望を酌んで私がお姉さんだからこういう話をしているんじゃないか。

ほらお茶を出してやるから。

ん………



だから、女の子の言う事をうるさいとか思ってはいけない。



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ハーゲンダッツのアイスクリームはおいしいな。やはり。値段も良いけれど。
私は抹茶のが好きだ。ほら、この控えめな甘さがなかなか。
匠君のマカダミアナッツもおいしそうだな。一口こっちだ。あーん。


ん。どこまで話したかな。
そうだ。ルールが必要という話だ。

うん。まあそういうことで私も世間に対してのルール破りという面に関しては破ることやぶさかではない。 それが匠君と私の2人のルールなのであるからな。
ん。

まあ2人のルールが世間のルールを凌駕するというのはシドとナンシーや俺たちに明日は無いなんかと同じではた迷惑な事この上ないかもしれないがまあなんていうかあれだ。少し格好が良いな。


話が逸れた。
しかしだ。ここが重要だぞ。
われわれもそういう関係になるのであれば自ずと二人のルールは変わっていかざるを得まい。
その点をきちんとしなくてはいけないと、こういう話だ。


ではこの事についてまず私の見解を述べよう。
ん。

まず心配なのは男とは釣った魚に餌をやらないらしいという事だ。美紀が言っていた。
変に自信をつけてほかの女の子とべたべたして困ると。
黙れ。
雑誌にも書いてあったしこの前テレビでもやっていた。
信用できないとまでは言うつもりはないが、匠君がそうではないとはいいきれない。
そもそも男というのは我慢に弱い。
この前もそうだ。冷蔵庫に入れておいた私のプリンを匠君は食べただろう。
黙ってはいたが知っているんだ。
だから女性からの誘惑にも弱いに違いない。信用できない。

悪事は必ず露見する。これを忘れないでおくといい。


なんといっても世の中には誘惑が多い。
ああこういう風にすれば良いのかなどと匠君が思ってだな。
ふらふらと遊び歩くようではいけない。

お酒を飲んでパーっと良い気分になってだな。 悪友などに誘われて変な所へ行ったり、そういうところに行かずとも匠君に興味がある年下の女の子の肩なんかを抱いてだな、甘い言葉を囁いたりとか、そういう事をするようになってはいけないな。

あの匠君の幼馴染の可愛らしげな女の子。茉利ちゃんだ。
地元に帰った折に可愛がってあげるのは良いが、ふらふらと変な気持ちになっては駄目だ。
そうして匠君が外に愛人なんかを作ったりしたらだな、酔っ払って帰ってきたのを迎えるのは私なんだ。 いくら甲斐性と言っても許さないぞ。

プロボクサーなんかと一緒だ。技術があってもそれを発揮するべき場所でしか発揮しない。
こういうのが格好が良いんだ。駄目だぞ。

後一つ。心配なのは頻度だ。
一度したからといって際限なく男性というのは女性を求めるらしいということだ。
これも美紀が言っていた。困ると。ムードが大事なのにと。
ここは大事らしいぞ。覚えておくといい。
特に心配なのは匠君がそういうことに慣れてしまうことだ。
して当たり前。これはいけない。

私達は未だ学生でもある。時にそういう行為に身を染めることがあったとしても
そういう事には自ずと自制心を持ち特別な時以外は控えるべきであろう。


特別な時?そうだな。
こういう事に特定の日を割り当てるのはそぐわない。うん。確かに匠君の言いたいことはわかる。

私もそこまで言うつもりはない。
しかしだ。初めての時くらいは流れに身を任せるなどということなく日にちを決め、
その日に向け身を清め、正しく執り行うべき知識を身につけておく。
こういう準備が必要だろうと私は思う。

ん。そこでだ。これは私の提案なんだが。
私は、私と匠君の記念日にそれを執り行うのが一番適切であると思う。

だからだ。どの記念日が良いか。そこで私は考えた。
覚えているか?匠君の寝ている病院のベッドの上で、ようやく目が覚めた匠君と私は初めてのキスをした。
あの日が良いじゃないか。とてもロマンチックだ。
いつだったか覚えているか?


覚えていない?これだから匠君は。
六月十日だ。覚えておくと良い。
つまり来年の六月十日だ。
その日まで双方体調を整え、知識を積み重ねて立派に執り行…
ずるい?ずるいじゃない。ずるいことなんか一つもない。
今日が六月十三日である事と私達の記念日が六月十日である事には何の関連もないのだからずるい事など何一つない。

無理?無理とか言うな。無理なことなどない。
今まで無理なことなど何一つなかった。

どうしても我慢ができなかったらそういう時はスポーツをするんだ。スポーツを。
む?変だ?変な事など何にもないじゃないか。
私にだって覚悟というものが必要だ。
心を落ち着かせ、何事にも動じない準備をしてこのなんか変にバクバクいうのをいざという時にいわないよう、匠君をお姉さんとして見事導けるように知識とかそういうも

『涼子さん、痛いの怖いの?』


………

……



ん?なんだ?話の腰を折ってはいけない。それに匠君何を聞いていたんだ。つぶらな瞳をしてなんていうことを言うんだ。私が言いたいのはそういうことじゃなくてだな。男女間、いや人間としてのこうあるべきだというありかたをだな。 正しい男女交際とは何か。 将来に向けて仲良くい続けるためにどうすれば良いかということを真剣に匠君に考えてもらいたいと思ってこうなんていうかな。 まったく。 匠君はきちんと私の言いたいことを読み取ってくれないと困るな。

大体そ、そんな即物的な事で嫌とかそんなことは全然、全然って事も無いけど痛いのはいやだけれども痛くしない?
嘘だ。嘘。男はみんなそう言うんだって書いてあった。
最初はそういう甘言を弄していざとなると容赦をしないんだって書いてあった。
いざとなると全然話を聞いてくれないんだって。
美紀もなんか遠い目をして黙り込んだし。

だ、大体私は力もないし華奢だし匠君が私の話を聞かずに容赦をしなかったら

『涼子さん、不安なんだね。ごめん。』

な、なんて事いうんだ。
ちが、ちがくてちょ、そうじゃなくてだって匠君が
う…
う…
うう・・・
ず、

ずるいぞ匠君。ず、ずる、ずるいぞ!
私がお説教しているのに!

だってだな。匠君が
た、
匠く
う、
うう、

………

……



「うるさあああああああああい!!今日はもう帰りなさあああああい!!!!」





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ふう、大変だった。

んん。
今日は言い負けてしまった。
しかたない。私のほうに強い理が無い以上、そういう時もある。

しかし、考えておかなくてはいけない。
このままじゃいつどうなるか判らないから、その時までに匠君に伝えたい事を練習しておかなくちゃいけないかもしれない。

匠君は笑わないで聞いてくれるだろうか。



ん。
匠君。
匠君というのも子供っぽくて良くないな。そういう時は君と呼ぶ事にしよう。
匠君。いや、君に希望がある。
この期に及んではじたばたしないが、一つだけ、君にお願いしたい。
これはまた私の我侭かもしれないけれど、君にとってそんなに難しい事じゃないと、私は思う。

情けない事に、新しい世界に進むのは少し不安なんだ。
だから、君に沢山私を抱きしめてほしい。
もし、君が嫌じゃなければなんだけれど。

そう、できれば君のほうが背が高いのだから、ぎゅっと可愛がるように。
私が、君に買ってもらったぬいぐるみにするみたいにゆっくりと頭を撫でながら。

日頃は叱ってばっかりだけど、私は可愛がられるのも好きだ。知っているだろうか。
知らないんじゃないかなと思う。覚えておいて欲しい。

抱きしめてくれたら、君の胸の中で私は君の名前を呼ぼう。
君が中々口に出して言わないからといって私は責めるけれど、実は私も好きだなんて言葉はなかなか口に出して言えない。
特に私はお姉さんだからな。甘えてはいけないと思っている。

だから、だからこそ。

だから私はその時、精一杯の気持ちをこめて君の名を呼ぼう。
私から恋人である君への、「アイラブユー」の気持ちが届くように。


ん。
そうだ。
私自身がそうであるのだからして。
バリトンで「アイラブユー」と囁いてくれなくても、もしも君がぎゅっと私を抱きしめてくれたら、
今度そういう風になったら流れに身を任せるのも悪くないかもしれないと実は思っていた。

流れじゃないな。君にだ。
君に私を任せる。
私は甘いかな。つい君が言う事だとなんでも聞いてしまう。

いや。そんなことは無いかな。


私は必要以上に考えすぎてしまうから新しい世界に踏み出すのはいつも不安だ。
でも動き出す世界にはいつも君がいる。立ち止まろうとするといつもすぐ前に君が立っている。

世界は君がいるからこそ動いているのだと私は思う。
時に君が私の世界を引っ張ってくれている。それを忘れないようにしようと思う。

新しい世界を楽しみにする。
うん。

君は意外と優しくて常識的だから他の条件や希望は無しにしよう。

どうか、いつまでも君といられますように。
君に叶えて欲しい、私の希望だ。



終わり
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by obtaining | 2006-06-16 23:32 | document

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