P5hng Me A*wy 16街道には行かない その1

「いや、これ、本当に美味いよ。ちょっと濃いめの味付け位が好きなんだよね。これ、何の肉なの?」

「ありがとうございますご主人様。ですが別に特殊なお肉という訳ではないんですよ。PPr:Kutの腿肉の部分を使ったんです。」

「…俺には発音できなさそうだな。まあいいか。その、それは、動物なのかな、鳥なのかな。」
食事を美味しそうに食べられる事が本当に嬉しいのだろう。
可愛らしいエプロン姿で宿屋の部屋に備え付けられた樫のテーブルの対面に座り、俺と一緒に食事を取りながらにこにこと笑っていた由花は
俺の言葉を聞いて、目を丸くしながら口に手を当てて可笑しそうに笑った。





「確かに。ご主人様にそう言われてみればPPr:Kutって動物なのか鳥なのか、ぱっと見た目ではどっちだか解らないですよね。」
俺の言いたい事はそうじゃない訳だが、由花の言葉にははははは、と乾いた声で笑っていなす。
『とりあえずいちいち気にしない方が良い。』それがこの1日で俺が学んだ一つの真理である。
それはペンギンみたいなモノなのだろうか、それともダチョウみたいなモノなのだろうか。とかは後で悩めば良いのだ。
その場で解決できない問題は全て先送りにして未来の立派に成長した自分に全てを託す。
これは学生時代からの俺の哲学の一つであり、
『とりあえずいちいち気にしない方が良い。』の真理とは非常に相性が良かった。

「ご飯、お代りしますか?」
「あ、うん。そうだね。このおかずはご飯が進む感じだから、もう一杯貰おうかな。」
「はい、沢山召し上がってくださいね。」

にっこりと笑って嬉しそうに茶碗を受け取る。
良いなあ、人見知りとかしないで。
美人の笑顔は得である。思わずこちらも笑顔になってしまう。

しかし、つい1時間前に見知らぬ人と殺し合いをしかけた人間とは思えぬ笑顔である。

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「…私がこういう事を言うのもとても差し出がましい事なのですが…少し、ご主人様は奴隷というものを誤解なさっているようですね。」
左手で俺の右手を指を絡ませながら掴み、つまりはごくありきたりな方法で二人で手を繋ぎ合って歩きつつ、
由花が右手を自分のつんと形良く尖った鼻の頭に当てて考え込むようにした。

「と、言うと?」
「つまり、今のご主人様のどのように命令をすれば良いのか、という言葉にそれが表れているのです。
今までのご主人様と奴隷の関係がどのようなものであったのか、それは私には判りかねるのですが…」
「…なるほど。」
少し言い淀んだ由花の言葉を促す。

「その、あまり言い方がありませんので明け透けな言い方になってしまうのですが…
ご主人様に命令を頂く、と云うのはあまり奴隷にとって嬉しい事ではありません。」
「あ、そうなんだ。」
まあそりゃそうだよな。と頷こうとした俺の心を読んだかのように由花が俺の目を覗き込んできた。

「あ、いえ、誤解なさらないようにお願いします。」
「ん?」
「ご主人様に命令を頂いてしまう事が恥に繋がるという意味で申し上げております。」
「ん?」
「ご主人様のご意向を忖度し、命令を頂く前にそれを完了させておく。もしくは実行する。
そのような心がけが大事なのです。」
「んー。ん?主人は、命令しちゃ駄目って事じゃないってこと。」
「無論です。ご主人様にご命令頂く事、ご指示される事は奴隷としての喜びの一つです。」
「ん、んー。なんとなく、判るような、判らないような。」
ふむう。と溜息を吐くと由花は顎に指を当てて首を傾げた。
随分もどかしいのだろう事は俺にも判るのだが、微塵もそんな素振りは見せない。実に辛抱強い。

「そうですね。例えばですけれど。今、私達がどこに向かっているかご主人様にはお判りでしょうか?」
「あ、判ってない。何となく街を案内してくれるのかなと思っていたんだけど。」
「とりあえず時間も時間ですので、宿屋に向かっております。」
「あ、そうなんだ。」
「ご主人様は定宿やお屋敷の場所を覚えてはいらっしゃらないと考え、そのようにしております。」
「あ、うん。由花の言う通りだ。」
「宿は市場の向こうにありますのでとりあえず市場で最低限の必需品を購入しようと考えております。」
「なるほど。」
「ちなみに今、右前方にあるリンギットの葉の印のある店は品揃えも質も共に評判が良いですので、そこに入ろうと思っています。」
「おお。そうした方が良さそうだな。何しろ俺、手ぶらだからな。」
「と、この位の事は奴隷にお任せ下されば良いのです。」
「…!なるほど。」

凄く優秀な執事かメイドみたいだと思えば良いのか。と至極納得した所で由花の指さしていた店の前に到着した。

店の扉の前で由花が立ち止まる。
「ということですので、少し買い物をしたいと思っております。ご主人様の財布をお預かり出来ますでしょうか?」
と言って来た由花にお、とポケットの中にあった財布を渡す。
何枚かの紙幣っぽいものと硬貨があるようだったが、これで足りるのかは判らない。
などと考えていると、由花は俺が差し出した財布に手をかけながら少し顔を紅潮させてもじもじと戸惑っていた。

「どうした?」
何か間違えたのかなと思って声をかけると上目遣いで
「そ、その、厚かましいお願いをして申し訳ありません、その、今、暫定とはいえご主人様の一番奴隷でありますので、
店の者に財布も預けられない奴隷と思われるのが恥ずかしかったのです。」
かああああ、と首まで真っ赤になっている。

『とりあえずいちいち気にしない方が良い。』
俺の頭の中に一つの真理が浮かぶ。何かこれ、凄く大事そうなので心に刻み込みながら返答を考える。

「以後、財布は由花が持っててくれ。」
「は、はい!ありがとうございます。」
実に嬉しそうに財布を抱え込んで店の中に入っていく。

「鞭と首輪ですけれど、お好みはございますか?」
店に入って行くなり由花に尋ねられる。
「無いかな。」
「…どういたしましょう。こればかりは私が決める訳にもいきませんし…。」
「それは必需品なのかな。」
「いえ、そういう訳ではございませんが…。ご主人様は積極的絶対主義派なのでしょうか?」
「いや、んーー。どうなんだろうな。」
きっぱり言い切られると何その派。とは中々言えないものである。
「変かな。」
「いえ、そんな事はございませんが…その、」
「うん。」
「正直に言いますとお揃いになった鞭と首輪に憧れないかというと、嘘になってしまいます。」
その、私専用の、と、もごもごと口を濁らせながら由花が俯く。
よし、俺が取るべき行動が判った。
「…今度改めて買いに来るってのはどうかな。その、今日ここでじゃなく、もう少し色々な所を見て良いものを探そう。」
「い、いいんですか?あ、ありがとうございます。」
由花がぱっと顔を上げ、表情がぱああ、と輝く。
じゃあ、鞭と首輪はそう致しましょう。と言いながら足取り軽く店の奥に入っていく。
聞くこともなく俺達の会話を聞いていたのだろう。店の入口近くのカウンターにいた白髪頭の老婆の口元が優しく緩むのが見えた。
何かちょっと良い話っぽい雰囲気なのだが、無論俺には事の詳細は判らない。
『とりあえずいちいち気にしない方が良い。』
心に言い聞かせる。

由花は石鹸に拘りがあるようだった。
透明の液体が入った様々な瓶を矯めつ眇めつ眺めている。
ここの石鹸は普通の石鹸のキツイ匂いとは違う、何とも言えぬ優しい香がするらしい。
由花が瓶の蓋をあける度に爽やかだったり、少し甘い感じであったり、それぞれ思い切り深呼吸したくなるような香が漂う。

「石鹸に拘りがあるのか?」
「…はい?」
「なんでもない。」
なんでもない。余計な事を言わないに限る。と頭に?をくっつけたような顔をしている由花を横目に反省する。
「…あ!はい。まあ、そうですね。そういえば石鹸といえば石鹸みたいなものですね。」
ぽんと手を叩かれ、納得される。
「そうですね、拘りという訳ではないのですが、私のと似たのが良いですし。」
「そ、そうなんだ。」
いつも使っているシャンプーが良い、みたいなものだろうか。

漸く納得するものがあったのだろうか、その中の幾つかを籠の中に入れた後、由花は今度は食材がある方向へと歩いていく。
その時だった。
カラン、と音がして店の扉が開き、手に大ぶりの鞭を持った初老の目付きの鋭い男が入って来た。
その後を付いて首輪を嵌めた女が二人、入ってくる。
おおお、判りやすい。コレくらい判りやすいといい。間違いなくどう見ても主人と奴隷二人といった風情だ。

ぼんやりと男を見ていると男は俺に気が付いたのだろうが、一瞬俺の顔を見た後、視線を外した。
ふと振り向くと由花が俺の方を気遣しげに見ている。

ここで俺は失敗を犯した。
のだと思う。

目付きが鋭くはあるが、どこか浮世離れした男の感じに少し親近感を感じていたのも確かだ。
はっきりと男を視認したのが城門で見た男以来で、気になったという事もある。
雑然とした店の雰囲気は見知らぬ男に気軽に声を掛ける格好の機会に思え、
俺は手を上げ、男の方に歩み寄って口を開き、
「こんにち」
「「「ご主人様っ!!」」」
同時に3重の悲鳴が上がり、スローモーションで目の前の風景が動き、
男の両脇にいた奴隷が血相を変えて男の前に立ちはだかりつつ細身の刀を抜き、払い、
その剣の切っ先が一瞬前に腰を抜かした俺の頭上、丁度首のあった辺りを抜け、
俺の尻が床に着くと同時につい1秒少し前には5メートルは後ろにいた由花が俺の前で相手に向かい立ちはだかっていた。

呆然と見上げる中、ギィン、ギン!と重い金属質の音と共に俺の目の前の由花の脚が俺を庇うように動く。
目線を上げると由花はムエタイの選手のように両腕を上げ、その両手に大身の包丁を逆手に構えて前傾姿勢で相手方に対峙している。
「良く避けて頂けました。後ろに下がって下さい。ご主人様。」
由花がほっと息を吐きながら気遣わしげな声で後ろにいる俺に囁いてくる。

「いや、でも。」
「ご心配なさらないで下さい。命に替えてもお守り致しますから。焦らず、後ろへ。」

「あ、ああ。」
うなずいて後ろに這いずる。情けないという意識もなかった。
先ほどの殺意の篭った鋭い金属質の響きが耳に残り、ガクガクと脚が震えている。

相手方の二人がジリジリと前進し、それに呼応するように由花の手が円を描くように動くのが見え、ヒュンヒュンと空気を切る音が聞こえた。
緊張感が限界まで達しようとしたその時
「もういい。やめろ。オルメタ、コニー。」
と男の声が消え、同時にその場から殺気が掻き消えるのが判った。

男の方を見ると細い目がさらにすう、と細まり俺の顔を凝視している。
と、「違う店に行くぞ。」と言うなり踵を返して大股に店を出て行った。
オルメタとコニーと呼ばれたうちの一人が男の言葉と同時に背を向けて男の後を追い、
数秒後に由花を睨み付けていたもう一人が武器を仕舞ってから踵を返す。

扉が閉まったと同時に
「はああ、危なかったあ。」
と由花が呟き、振り向いてご無事でよかったです、と俺に体重を預けて抱きついてくる。

由花の両手の包丁が俺の両頬にかすり、俺は慄きつつ由花を抱きとめる。

@@
『とりあえずいちいち気にしない方が良い。』の後に『事情が判るまではうろちょろしない方が良さそう。』を心に刻み込ませながら
俺は買い物を終えた由花に引きずられるようにして宿屋へと着いた。

客室のドアから妙に細い3M程の廊下を抜けて居室へと入るという奇妙な間取りの部屋に入りそこに腰を落ち着けると、そこからは由花の独壇場となった。
半ば呆然としている俺を座らせ、先程買った細々とした品物をあちこちに配置し、部屋に併設されている台所で手早く料理を作り始める。
呆然と由花の忙しく立ち働く背中を見ながら、俺は先ほどの衝撃から立ち上がる事と、目に入る情報を処理するので精一杯だった。

忙しくガスコンロのようなモノの上で中華鍋のようなものを振っている由花を見ながら思う。
コンロは所謂ガスコンロの形をしており、それ以外にも金属製のバカでかいスイッチが幾つもついていて、
そのボタンを押すと蛇口からお湯が出てきたり、ガチャガチャと壁から包丁や調理器具が出てきたりしている。
随分とスチームパンクな世界だなあ、とぼんやりと思う。

ここはどこだろう。
そして俺はここで与えられたご主人様などという役目が務まる器では明らかになく、
目の前の女の子のお陰で何とかこの一日を生き延びている。
それはどうなんだろう。

そのうちに美味しそうな匂いの料理が目の前に運ばれてきて、俺はとりあえず、
『いちいち気にしない』で、目の前の食事に精を出す事にしたという訳だ。

料理は匂いだけでなく味も良かった。
そして飛び切りの美人であり、命の恩人でもある女の子と会話しながらする食事は間違いなく楽しいものだった。


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by obtaining | 2012-04-02 20:03 | document

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