ランプ

「希望、ですか。」
「希望ですね。」

僕が聞くと彼女は考えこむように眉を潜めながら、
ついと首を傾げて顎に手をやった。
僕よりも大分年下の彼女だが、そうすると大層思慮深く、賢そうに見えるのが不思議だ。
「明日の昼食はお刺身がいいなあ。とかでしょうか。」

「それのどこが希望なんでしょうか。」
「うーんと、まあ、ほら、この言葉って、明日が来ることが前提ですよね。
今日死んでしまうのなら明日は来ませんし、
あと、食事が出来る事も前提です。
食事ができるからこそ、お刺身がいいなあと思う訳ですし。」

「なるほど。」
僕が頷くと彼女は少し考えるようにしながらにこ、と笑った。
「あと白いお米もある前提ですね。この場合。」
「なんで?」
「だってお刺身にはご飯がないと。ご飯がないのにお刺身を食べたいとは思わないでしょう?」
そう言うとくるりと身を翻してクロスを持ち上げ、先ほどと同じようにランプを磨く作業に戻る。
ランプの明かりが艶々とした彼女の肌を白く照らす。
その背中にもう一度声を掛ける。

「じゃあ、絶望とは?」
「絶望、ですか。」
「絶望ですね。」

ふう、とため息を吐きながら作業に戻っていた彼女は僕の言葉にもう一度こちらを見て素早く口を開いた。
「貴方がいないことでしょうね。」
「それのどこが絶望なんでしょうか。」

「貴方がいなければ私はお給料が貰えないし、そうしたら明日のお刺身が買えないでしょう?」
「他で働けばいいじゃあないですか。君ならどこの家だって喜んで雇うでしょうに。
しかももっといいお給料で。」
「そうしたとしたって、明日お刺身は買えないでしょう?
明後日にはお魚の煮付けが食べたくなるかもしれませんし。」
私は明日のお昼にお刺身が食べたいんです。と、彼女は返してくる。

「難しいものですね。」
「言葉だけで考えればそうかもしれないですね。ところで明日は朝に港に行ってみますね。」
そう言いながら作業に戻る彼女の背中に最後に声を掛ける。

「つまり、明日、お刺身が食べられれば君は幸せなんでしょうか。」

くい、と彼女の首が先ほどと同じように傾く。
一度だけ首を返してこちらを睨んできながら、

「まあ、そうですね。食べたい人と食べられるのなら。」
この誰かさんの所為で絶望的に掃除をしていなかったランプもいつか綺麗になると希望を持ちながら掃除ができますし。

と続けてきた。


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twitterでフォローしてるかおるさとーさんがやってた
1000文字限定の<希望の超短編>との企画が面白そうだったのでリハビリを兼ねて参加してみる。
これで956文字で、もう会話のやりとり一つでも増やしたらオーバーする。
1000文字縛り、結構厳しい。
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by obtaining | 2011-03-18 17:23 | document

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