剣 The World's Greatest *1


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魅力的な主人が --もし本当に存在するとしてだが-- いるとして、
そういう人間に仕える事は私のような人間にとって誇りになる事だろうか。

まあ、勿論そうではあろう。
立派な、魅力的な人間に仕えるというのは、気分の良いものに違いない。
そういう人間に仕えられたら、きっと自分まで立派になったように思えるのだろう。

そういう意味で今まで私の部下だった人間は不幸であったに違いない。
最終的にヘマをやらかした訳だし、少なくとも私はボスとして魅力的だったとは言い難い。

それにしても広い。汗を拭う。
あの老人は暫く歩いた先にある四阿と言ったが、
暫く歩いても見渡す限りの薄赤に薄青の咲き乱れる花畑とその上に踊る蝶、
そしてその花畑の中を流れる清流何かが見えるばかりだ。
人の気配の一つもないのは・・・それは当たり前なのかもしれないが。

それでも老人の言葉に従って(従うより無かった訳ではあるし。)苔生した土壁に沿って歩く。
どこか遠くから、ざあざあという滝の音が聞こえてくる。

さて、何で私がこんな所にいるのかという疑問に答える前に、私がどういう人間なのかを話しておこう。
何故こんな所にいるのかは私にも良く判ってはいない事ではあるし、
暫く歩かなくてはいけなさそうだから、付き合って欲しい。
私は最近、少しだけ自分がおしゃべりなのではないかと思い始めているんだ。


私は人殺しだ。
今まで自らの手で確か72人くらいの人間を殺した。
その殆どをナイフで殺したから、ナイフの使い方には少しばかりの含蓄がある。
勿論ナイフだけじゃなく素手で相手を殺す事も可能だし、そちらの方が簡単だと思えば崖から蹴落としたり、ロープで首を絞めたりもする。
まあ、殺し方は問わない。多少は鍛えているとはいえ、私は通常の男よりも背が低いからナイフが一番簡単だってだけだ。

そんな人殺しである私はつい先日まで王国と皇国の国境沿いを根城にした盗賊団と呼ばれたものを率いていた。
ただ盗賊団というのは向こうの言い分で、こっちとしては盗賊をしていたという認識はあまり無い。
悪いことか良いことかと聞かれれば悪いことをしていた位の認識はあったけれど。

ああ、そうか。こういった場合、部下が殺した人数も私の罪に数えるのだろうか。
ならば私の人殺しとしての罪も、もう少し増える。
500人か、その倍位か、その程度だろう。
殺したのは男だけではない。中には若い女性もいたし、老人もいた。
但し子供は殺していない。子供は逃がすか、連れて行くかだ。
まあ、死ぬのと連れ去られて盗賊団に入る事と、どちらが子供にとって良い事なのかは判らないから、
私が良い事をしていた等と言うつもりは無い。
男は殺したし、若い女は部下の男に犯させて、その後は奴隷として売った。

通常の神経でそんな事が出来るのかって?それは難しい問いだ。
もう大分おかしくなっているのは違いないと思う。
私がそう思っていなかったにせよ、向こうが呼んだ私の盗賊団であるホワイトフォックスは、確かに盗賊団と呼ばれるには殺しすぎた。
私達は数年の間、気違い沙汰の如くに手当たり次第に殺しまくった。

どうやったらこんな事が出来るのか。
まあ、つい昨日まで、つまりは皇国に軍隊まで出動させた挙句にホワイトフォックスが壊滅させられて以降昨日まで
政府側の人間に取り調べられながらそう何度も言われた事なのだが、これは中々説明が難しい。

つまり、19歳にして72人を自らの手で殺し、(これは世界一とは言わずとも軍人でもない人間の中では多い方だろう)
100人規模の盗賊団を率いて手当たりしだいに町を襲うといったような事が何故出来るのか。という事なのだが、
うん、やはり、これは中々説明が難しい。

いや説明が出来ないと言う訳では無いのだけれど、説明した所で理解して貰えるかどうかが難しいのだ。
簡潔に言うとこういう事だ。
先ほどの政府側の人間にも同じように簡潔に言ったのだが、私の顔を見てため息を吐くばかりだった。

私は皇国国境線沿いのヴェストフラリア川沿いのテスタと言われる小さな町に生まれた。
15歳まではごく普通の宿屋を営んでいる父親と母親を持ち、さりとて不自由しない生活を送らせてもらった。

私が15歳になった頃の事だ。その頃私は母親の妹の娘。所謂従姉妹にあたる女の子をとても可愛がっていた。
一人っ子だった私には彼女が妹のように思えた。3歳のその子は実に、実に愛らしかった。
どこに行くにでも私は一緒に連れて行き、共に歌を歌い、
花を見つければそれを使って花輪を作って小さな頭の上に被せてやった

ある日、王国の兵隊がこちらにやってきた。
国境線沿いの町ではこういう事は良くある。
大抵、どちらの兵隊も問題は起こさない。
但しその時の王国の兵隊は違った。

私の可愛い女の子は、笑いながら覚束ない足取りで走った結果としてその兵隊の足にぶつかり、その一瞬後に斬られて死んだ。
胸元からハラワタまで切り裂かれて死んだ。
私の目の前で。男は怒っていた。3歳の女の子が足にぶつかってきた事に怒っていたのだ。

私も怒った。それが私をおかしくさせたのだと思う。
王国の兵士にも、あの髭面の男にも、何も言わず泣いている母の妹にも、抗議もしない父にも。
全てのものに対して怒った。
私は家を飛び出し、1年後には5つの町に繋がる麻薬取引の元締めになった。
2年後には組織を纏め上げ、それをホワイトフォックスと名付けて国境線上を渡り歩くようにして移動して
手当たり次第、目に写る町々全てから略奪していった。

3年後、危ない綱渡りにも限界が来た。
王国側の町で数人を殺し、数人の女を浚ってきて皇国側の港町で売り捌こうとした時に
私達は皇国の軍隊に囲まれた。
恐らく組織の殆どの人間が殺され、主だったものは捕まっただろう。つまり、私の組織は壊滅した。
誰かが裏切ったのか、情報が漏れていたのか。それはもう判らない。多分、一生判らないままだろうがそれでいい。

どうだろう。簡潔に言えば、私の人生はこういうものだ。
こう語った所で大した時間にもならない。
多少の浮き沈みがあるにせよ、19年の人生なんて語ってみればこんなものなのだろう。

そうだ、もう少し私の人生について話せるぞ。
大抵の人は家を飛び出してから、一年後の5つの町に繋がる麻薬取引の元締めになる所に興味を抱くようだ。
私を取り調べた政府側の人間は何人もいたが、皆、その点に興味を持っていた。
私は意外に思ったものだ。正直、私はその頃の事にあまり興味が無い。
あまり意味が無いし、その頃についてはそうなったから、というしかないからだ。
それより、あの女の子と一緒にいた日々の方がよっぽど素敵だった。
それなのにあの政府の人間達はその頃の事ばかり聞きたがる。
私はそうしたし、そうなった。それだけだ。
理由を言えと言われれば強いて言えば生きていく為にそうした、としか言いようが無い。
記憶もおぼろげではあるが、兎に角その時の私にはそれしかなかったのだ。
そんな事よりあの女の子の話をしたいな。
もう、あまり覚えてはいないのだけれど。

・・・
何の話だっけ?そう、私は人殺しだ、という話だっけ。
家を飛び出した後の話だったっけか。
そう、最初の人殺しも確かその頃だったが、どういう切欠だったかはもう忘れた。
最初に殺してから1年間で確か3人は殺したし、5人は一生簡単には身動きが取れない程叩きのめした。
私はもう立派な殺し屋だった。

その頃にはもう、この通り名で私は呼ばれていたと思う。
「白狐の少女」って。

この3年間で随分と背も伸びた。もう少女でもないのだが--それを言えばこう呼ばれ始めた時点で少女ではなかったが--
私は未だ国境線の町ではそう呼ばれ続けているようだ。
それもいつか風化していくのだろうが。

湿った小枝を踏みしめながら歩くと段々と滝の音が大きくなってきた。
空は晴れ上がった快晴。適度な風と小川のせせらぎは心地よいが、土塀の影でなければ暑いくらいだろう。
視界の左側には幻想的なまでに綺麗に咲き誇った花畑が遠い丘の先にまで広がっているのが判る。
所々にちょうど良い木陰になりそうな大きな木が枝を実らせている。

どこにも人の気配はない。

足元の小川と、それに沿ってどこまででも続くような土塀を歩く。
1時間位だろうか。もう随分と歩いた。ここは広い。
ゆっくりとカーブを曲がった先、急に視界が開けた瞬間、そこに老人が言っていた四阿が見えた。



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by obtaining | 2010-10-05 17:25 | document

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