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ペルソナ4 雪子 SS (自慰フェスタ参加その1)


「ううん、別に特に気にしてないから。」

尖ってるみたいに聞こえる声。
意識的に突き放したみたいに口に出した声。
やだなあ。と思う。
性格悪くなったんじゃないだろうか。私。

彼が困った顔をして頭を掻いているのをいらいらしながら見ていると、
廊下をすれ違った同級生が私の顔を見ながら少しびっくりしたような顔で通り過ぎていく。

きっと私の不機嫌そうな顔にびっくりしたんだろう。
昔だったら、取り繕うように笑えたのになあ。
いや、中学生位の頃からは学校で不機嫌そうな顔すらも殆どした事は無かった。
喜怒哀楽は、出来るだけ奥に押し込めていたから。

無難にクールそうに取り繕う態度と、いざと言う時の愛想笑いは
天城屋旅館仕込みの私のトレードマークだから。

ああ、困ったような顔でこっちを見ている。
「りせちゃん、待ってるんじゃない?」
もう一度突き放すように言う。言葉に出した瞬間、ずきん、と胸が痛む。

そう思いながらも彼が頭を掻きながら立ち去るのを見て、また少し、胸の奥がもやもやとする。
これからりせちゃんと楽しく帰るんだ。
どっかで買い物とかしちゃうんだ。
なんかちょっとしたハプニングとかおきちゃったりして
これは先輩とりせの秘密ですね。なんて言われてにやにやしたりしちゃうんだ。

ああ、自分が嫌になる。自己嫌悪に陥る。
「じゃあ、天城といるよ。」
なんて言われたら今よりずっといらいらしてしまう事なんて、判ってるのに。

@@

「雪子がこんなに恋愛体質だとはねえ・・・」

がふっと咥えていたストローを吐き出す。
飲み込もうとしていたコーラが口の端から垂れる。

「ち、千枝?わ、私、そ、そ、そんな事言ってないじゃない。私は私と先に約束したのに、
後から約束した、りせちゃんとの約束を優先するその神経が判らないって言っているの。」

慌てて口を拭いながらそう言うと千枝が私に向かって気だるげに手を振ってみせてきた。
「いーのいーの。判ってるから。あーあ。私の雪子、取られちゃったなあ・・・」

「だから、違うって、怒るよ千枝!」
ばんばん。とテーブルを叩くと、バキッ、と派手な音がした。
そんなに強く叩いてないのに。
なんだかすごくはしたない事をした気分になってかっと顔が赤くなる。
う、プラスチック製の机はこれだから。
フードコーナーと言えども風雪に晒されるんだからもっと丈夫なテーブルと椅子にするべき。
花村君に、テーブルは頑丈にしたほうが良いよ。とアドバイスしようか。
と頭の中で慌てて花村君の所為にする事で、「こんな所、もし見られたら凄く恥ずかしいんじゃ・・・」
なんて事を咄嗟に考えてしまった自分の思考をそらす。

「そういうのじゃなくて、信頼関係の問題でしょう?約束って、そういうものじゃない。
私は真面目な話をしてるの。これでもマヨナカテレビの問題とかだって真面目に考えてるし、
だからこそお互いが信頼できない状態って何笑ってるのよ千枝…」

オレンジジュースのストローを咥えたまま肩を震わせてくっくと笑っている千枝を睨みつける。
と、千枝はひとしきり笑った後、少し笑いながら、少しだけ真面目な顔をした。

「あーあ。おかしい。だってさ。
今までの雪子だったらさ、男の子との約束なんて、そんな事した事あったっけ。
ま、でさ、もし、もしそういうのがあったとしてもさ。
それがすっぽかされたからってそんなに怒る?雪子が?」

「だから、すっぽかされた事に怒ってるんじゃないの。」
「んーん。違うね。すっぽかされた事に怒ってるんだよ。雪子は。」
「な・・・」

被せるような千枝の言葉に絶句した。
「だから、要はさ。雪子は嫌だったんでしょ。主人公君がりせちゃんと仲良くするのが。」
「ち、違うってっ」
思わず叫んだ後、違うもの。と小さく付け足すと、千枝ははあ。と溜息を吐いた。

「じゃあさ、どうすればよかったのさ主人公君。雪子に謝ってきたんでしょう?
しょうがないじゃん。あの子がパパラッチに困らされてるなんて聞いたらさ、
主人公君の性格だったら助けに行こうってそうなるでしょう。
主人公君が、そういうのほっといて雪子と遊ぼうなんて性格じゃないの雪子だって知ってるでしょう。」

「あ、遊びに行くってその、そういう訳じゃないし・・・」
そう。助けを求められたら断れない性格だなんて、そんな事は判っている。
判ってて、でも嫌なんだもの。

「で、そういうの知ってて、それでも嫌なんでしょう。
 はあ。まったく、雪子こういう所は中学生みたいなんだから。」
「な、な、何が中学生よ。」
「えーと。愛情表現の幼さ?」
ふふん。という感じでこちらを見つめてくる千枝に思い切り怒鳴る。
「あ、あ、愛情表現なんかじゃないっ!千枝!怒るよ!ぜ、全然違うよ。」

「違わないって。」
こちらが怒鳴ってもどこ吹く風だ。
これだから親友って言うのは遠慮がなくて困る。
怒鳴った言葉の行き先が何処かへ行ってしまって、でも悔しいから知らない。と言ってそっぽを向いてやる。

「白状してみ。主人公君がりせちゃんと仲良くして嫌だって。うりうり。」
なんだか千枝にそうやって言われると自分が物凄く幼いような気分になる。
ストローを咥えたまま私をからかう千枝に邪険に手を振りながら、
悔しまぎれに反撃するつもりでくるりと向き直った。

「千枝、いじわる。大体千枝だって普段はこういう話弱いくせにさ。
千枝の好きな人の話だって、私まだ聞いてないよ。」

その瞬間、千枝の頬がぼっと染まった。
ボーイッシュな振りをしていても実はこの手の話に千枝は弱い。
すぐに赤くなるし、絶対に本当の事を話さない。
普段なら私がからかう役なのだ。

「ゆ、雪子、わ、私の話はいいよ。」
「散々からかっておいて?好きな人、いるんだよね。さて、誰なのかな。」
「ほ、本当にいいから。」
真っ赤になって横を向いてしまう。
それを見て、また私もストローを咥えた。
今日はここまでにしておく。深追いしないのが私達のルールだ。

暫く黙ったまま、赤く染まった夕暮れを見ながら2人でずずず、とジュースを啜った。
千枝がなんだか真面目な顔で、夕日を見ていた。
ボーイッシュなようで実はとても女の子らしく整っている千枝の顔。
ちょっととんがった唇がかわいらしい。

ぼう、と千枝の横顔を見ていたら
ずずずずずーと下品な音を立てながら最初に千枝が飲み終わった。

もごもごっと口を動かして、それから私の方に少しだけ視線を動かして。
それから千枝はそっぽを向いたまま、こう言って来た。

「わ、私は良いと思ってるんだよ。だって雪子、閉所恐怖症みたいな顔、あんまりしなくなったじゃん。
私は、それだけですっごく嬉しいよ。だから、その、良いと思ってるんだ。
その、上手くいえないけどさ。私、雪子の事、大好きだし。でも、うん。雪子、元気になったから。
だから良いと思ってる。」

これだから親友って言うのは。
ピンポイントで胸に刺さる痛い言葉とこういう優しい言葉を使い分けてくるんだから。
千枝の言葉はとても嬉しくて私の胸に届いてにやけそうになってしまったから、
私は夕焼けを見ながらそれに返事はしなかった。

@@

千枝と話して少しだけ気が晴れて。
でも家に真っ直ぐ帰るって気分にはまだなれなかった。
今日はダイエットとかそういう事は考えない事にしてもう一本、ジュースを買って。
河原そばの公園のベンチで1人座りながら物思いに耽っていると
様々な考えがてんでバラバラに頭の中を流れて行く。


いまごろりせちゃんと楽しく会話してるんだろうな。
外食してたりして。
もしくはりせちゃんちでおばあちゃんと一緒に食べてたりして。

一緒にご飯食べたいな。

恋愛体質。ねえ。
本当にそうなのかな。
私のこれは、恋愛なのかな。

千枝の好きな人って誰だろう。
主人公君かな。
なんか、そんな気がする。
時々見せる千枝の女の子っぽい仕草は、物凄く可愛らしいけれど、
特に主人公君と一緒にいる時に多い気がする。

何かそれはそれでいいな。と思う。
千枝と一緒の人を好きになるって何か、なんとなくありだ。
修羅場とかになるのかな。
でもなんか私達はそれでも仲良くしてそう。
こんなのって願望なんだろうか。
でも例え結果がどうあっても、何か納得できそう、そんな気がする。

千枝とのことで今日みたいな事があったら、私はどう思うんだろう。
やっぱり、こうやって怒るのかな。
嫌な気持になるんだろうか。


真っ暗な夜空を見上げると、星空が光っていた。
ここはあんまり星は見えないけれどそれでもぽちぽちと所々で光って見える星を数える。

ほうっと溜息を吐く。
あーあ。
ぐぐうっと伸びをした。公園には私しかいないから思いっきり行儀悪く。

「そう。」
声に出して言う。

そう、嫌だったな。
だって私と先に約束したんだもの。
買い物に行きたいって思っていたんだもの。
お弁当の材料とか。作り方の本だとか。

買い物が終ったらどっかで買い食いとかして、いろんなお話をして。

それ全部、りせちゃんとやってるのかも。
判ってるけど、でも納得いかない。

でもあんな冷たい態度取って、どう思っただろう。
聞き分けの無い女、なんて思ったかな。
やな感じだったな。私。

「あーあ。」
声に出す。
頭の中がごちゃごちゃ。

それでも千枝と話した事で大分落ち着いていた。
私は、主人公君の事を好きなんだろうな。と思う。

ごめんねって謝ろう。
私がいやだった事、それは置いておいてあんな態度をとってごめんねって伝えよう。
で、その。お詫びに今度は本当においしいお弁当を作って行って。
まあ、今回はお詫びの印だから板前さんとかの力を最大限に借りる事にして。

「うんっ」
そう言って立ち上がろうとした瞬間だった。
後ろから声が掛かった。
「あれ?」

深夜の公園。私は1人。落ち着いた感じの男性の声。
でも声を聴いた瞬間、口元が緩むのを抑えられない自分がいる。

何だ。声だけで判っちゃうんだ私。
1人だけっぽいし、りせちゃんはいないっぽい。

ふうっと息を吐いた。
口元を引き締めてくるりと振り返る。
さりげなさと少しの驚きを顔に表現させようとさせつつ
「あれ?主人公く・・・・」
目に入った主人公君の姿に本当に目が丸くなった。

なんだか全体的に色素の薄い感じの清潔さ。
整った顔立ちと特徴のある目。
雰囲気よりも実際には意外と高い身長。
の主人公君の手に持たれているでっかい魚。

なに、それ。
「いや、ええとそこの川で釣ったんだ。」
いつ?
「いや、一時間前位からかな。」
りせちゃんは?
「学校から送って、その後釣りに行ったから。」
大きな魚を指差しながら矢継ぎ早にそう聞くと律儀に少し考えた後、答えてくれる。

唐突に聞こえるかもしれないけど今しかない。と思った。
何か泣きそうな位安心している自分がいて、変に会話を続けると本当にぽろぽろと涙がこぼれそうだった。

「今日はごめ」
「今日はごめん。」
被せるように言われて思わず顔を見上げた。
「今日、これで弁当作るから、明日の昼ご飯とか、一緒にどうかな。」
くるりと目を回して、凄く律儀な感じに今日の埋め合わせって訳じゃないけれど。
と付け足してくる。

一瞬、固まった。

お弁当を作るから、一緒に食べよう。

って、なんて乙女チックな事をこの人は言うのだろう。


「ぷっ」
思わずくくっと喉が鳴った。
笑いがこみ上げてくる。

お弁当、作ってくるからだって。

「くくっ・・・あはっ、あはははは。」
こうなるともう止まらなかった。
私が言う筈の言葉、お弁当作ってくるからって。言われちゃった。

「あははははははははは!あははっあはっ いいよ、お、お、お弁当、食べようっぷっあはっあははははっ」
戸惑ったような彼の顔を見ながら、身体を折って彼の腕をバンバンと叩きながらお腹が痛くなる位。
「だめ、お腹痛いっあはっあはははははご、ごめ、ごめんね。あはっお弁当楽しみにしてるからっあはっあははははははっ」

お弁当を作ってごめんなさいする男の子なんて、初めて聞いた。
『今までの雪子だったらさ、男の子との約束なんて、そんな事した事あったっけ。』
そうだった。私がこんなに男の子の前で笑うなんて。
『閉所恐怖症みたいな顔、あんまりしなくなったじゃん。』
そう。前は私の人生に価値なんて無いんだと思っていた。
『ううん、別に特に気にしてないから。』
なんて言っちゃって。私、こんなに怒ったの、いつぶりだろう。

明日千枝にもありがとうって言おう。
私の話を聞いてくれてありがとうって。私も千枝の事が大好きだよって言おう。
目の前で困ったような顔をしている私が多分好きな人。
これはまだまだ内緒にしておこう。
千枝にも、私の心にも。

もっともっといらいらして、怒って、
でもこんなに笑える。

戸惑ったような主人公君の前で、私は呆れられる位に笑い転げた。



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by obtaining | 2009-05-14 14:53 | document

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