Swastika Eyes 1


王国にモンスター、と呼ばれる怪物が出現し始めてからもう10年になる。
それらが本当に文字通り”モンスター”なのかどうかはわからない。
奇怪な姿、過去の文献にあるオークと呼ばれる怪物に擬した姿から、モンスターと呼ばれているだけだ。

2足歩行し、見た目のみで言えば猫背の人間に見えなくも無い立ち姿。
しかし通常の人間のほぼ1.3倍、つまり2メートルを優に超える身長とそれに付随する凶悪な筋肉。
暴力的で野蛮な性格でありながら人語を解し、村々を群れで襲う奴らはまさにモンスターだった。

このパニックに対し、当初は散発的な軍の出動対応でモンスターどもを退治しようとしていた王国だったが、
寧ろ軍の出動は更なる混乱をもたらした。
緒戦にてモンスターどもに散々に打ち負かされた末、軍が駐留した町では略奪が横行し、挙句の果てにクーデター騒ぎまで起きた。
そもそもモンスターどもは山の奥深くや森の中、打ち捨てられた廃墟を住処として小規模な群れを成しており
大規模な軍による討伐は現実的ではなかったのだ。

数年間に渡る討伐作戦の後、多大な犠牲を払った王国は軍による討伐を諦め新たなモンスター対策を打ち出すなど、
モンスター対策にその国力を使う事となった。

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王国の辺境にあるこのテッセルという町にもモンスターによる被害は起こっていたが、
山間の堅牢な土地柄からモンスターによる被害は他の土地に比べ比較的軽微であった。
ガルミット山とそこから流れ込むヴェストフラリア川に囲まれた土地にあるこの町の抱えている問題は
ある意味でモンスターなどよりもっと複雑で、そして深刻だった。

避けられぬ戦争への恐怖。

歴史上、皇国と王国の狭間に位置し続けたこの町はその戦略上の拠点となりうる立地から
テッセルは皇国と王国との戦争の度に翻弄され続けてきた。
モンスターに悩まされる王国であったが、隣国の皇国との領土争いはそれより昔からずっと続いてきた頭痛の種だったのだ。
この30年間、テッセルは王国の支配下にあった。
その前の100年間は皇国の支配下で、そしてその前は王国の母体である連合国家の支配下だった。
王国が勝てば王国の支配下に、皇国が勝てば皇国の支配下に。
この数百年間、皇国と王国の諍いの度に激戦地となったこの町は皇国と王国との国境線上にあり続け、
そして二つの大国の都合のままに翻弄され続けてきたのだ。

モンスターは撃退すればよいかもしれないが土地は変える訳にはいかない。
王国と皇国とが戦争になる度に確実にテッセルは激戦地となってきた。

テッセルの町人にとってはモンスターなどよりそちらの方がより深刻で、
そして現実に起こりえる、度々起こってきた最悪の状態で、
そして今、その戦争の足音は確実にテッセルに忍び寄っていた。


この数年、皇国では代替わりにより即位した皇帝カルによる国内の専制統治が進み
皇国内の統治が進んだ事により皇帝カルはモンスターに悩む王国の肥沃な領土にもその手を伸ばそうとしていた。

しかしカルの思惑に反し、王国はモンスターによる打撃を受けてはいたものの
私兵隊によるモンスター狩りも一定の成果を収めておりそれゆえ軍隊の疲弊は少なかった。
騎士団は精強で、皇国も簡単には手を出せない程の戦力を保持していた。
この為、近年では、皇帝カルは表面上は王国と手を結び、国内の統治を一層固める方向で政治を進めていた。


しかし皇帝カルの意思や思想は言葉に出さずとも配下の軍隊へと伝わる。
軍隊の空気は国民へと伝わる。
皇国が王国にその手を伸ばしかけているという噂はまことしやかにその国境付近の町で流れ、
皇国、王国双方の国境付近の兵達は警戒を露にしていた。
表面上王国と皇国との外交関係は順調であったが、ここ数年国境付近においては
世界髄一の兵力と言われる皇国軍と王国が一触即発の状態となっていた。

そして、起こるべくして今回の事態、町人達が恐れていた事態は起こった。
皇国の精鋭を集めた偵察隊による、テッセルへの強襲。
それが皇帝の指示によるものか軍部の独断なのかは定かでは無かった。
しかし少なくとも皇帝の誇る偵察隊は昼日中の余りにも大胆な強襲を敢行し、
王国の少数の守備兵と管理官達を為す術も無く全滅させた。

そして偵察隊はその任務に忠実にテッセルの町を最前線と定め防御陣地の構築を始めた。

皇国が開放と呼び、王国が侵略と呼ぶ行為。
テッセルの町人達にとって同じ意味の言葉を持つそれがテッセルを覆いつくそうとしていた。


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「ねえ、寒いよ。おうち、入ろうよ。」
そういった僕の言葉に、父さんは僕の手を握ってくれた。
「ロタール、もうちょっと我慢しなさい。」
そういって、父さんは切り株の上に座ると僕を抱え込むように抱き上げてくれた。

ちくちくとした髭が頬に当って、僕は笑い声を上げてしまう。
すると父さんは静かにしなさい。と言って、僕を抱きしめてきた。

父さんのその声はいつもと違ってなんだかとても緊迫していて怖い声だった。
思わずお父さんを見上げると父さんははっとした顔をしてごめんな。とそう僕に言った。
そして、怒ったような、なんだか悲しそうな顔をして家の方を眺めていた。

何故父さんは怒っているのだろうか。
さっきお家に入って来た兵隊さん達の事だろうか。
いきなり家に来た兵隊さん達に父さんと僕だけ家の外に出るように言われて、お母さんだけが家の中に残った。
家を出るとき、僕がお母さんは?と聞くと
父さんはお母さんは兵隊さんたちとお話があるんだとだけ言って、口を結んでしまった。
何だか怖くて、僕は父さんにそれ以上聞くことが出来なかった。

お母さんは今、兵隊さん達と何の話をしているのだろう?
あの兵隊さんたちはいつ家から出て行ってくれるのだろう。

季節はもうすぐ秋で、外は暗くなりかけている。
振り返って森の方を見ると、既に真っ暗だ。
外に出てはいけない時間。友達と遊んでいても帰らなくちゃいけない時間。
お母さんからはそう言われている時間。

もうすぐご飯だったのに。
今日のご飯は僕の好きなシチューだったのに。
兵隊さん達がお母さんとなんの話をしているのか判らなかったけれど、
父さんが怒っているのは判ったし、僕もやっぱりあの兵隊さん達は嫌いだ、と思った。
人を嫌いって思ってはいけないって言われていたけれど、でもそう思っているのはお父さんや僕だけじゃない。
お母さんと行った買い物の時に町の皆だって
「皇国の奴等が。」
「きっと王国の騎士様が・・・」
なんて口々にそんな風に言っていて、いつのまにか現れたあの兵隊達が嫌いのようだったし、
いつも優しくて、町の人たちの悪口なんて決して言わないお母さんですら、何回も僕に言いきかせる様に
「絶対にあの兵隊達の方へ行っては駄目よ。もし見かけたら、必ず家に帰ってらっしゃい。」
と言った。
それって、兵隊さん達の事が嫌いって、そういう事だよね。

僕だってなったばかりだけれどもう7歳だ。
父さんの仕事の手伝いもしているし、やっていいことと駄目な事の区別くらいはつく。
お母さんが兵隊さん達に近づいては駄目。って僕に何回もそう言ったっていう事は、
それはとても重要な事で、何か理由があって、絶対にしちゃいけない事なんだって僕は知ってる。

だから町の皆と遊んでいる時に優しそうなおじさんの兵隊が来て、
話しかけてきたりお菓子をくれようとしたりしたことがあった時も
皆は貰っていたけれど僕はお母さんのいう事を聞いて走って逃げた。
お母さんが駄目といった事は駄目なのだから、決して兵隊達には近づかないように僕はした。

それなのに納得がいかなかった。
そんな近づいちゃいけない兵隊さん達が何で僕の家に来たのだろう。
兵隊さんたちと話しちゃいけないのに、母さんは今、家の中で何を話しているんだろう。
なんで父さんは怒っているのだろう。

なんでいつもみたいにこの時間に夕ご飯が食べられないんだろう。
父さんの膝の上は暖かかったけれど。
僕はお腹がすいて、父さんの腕にしがみ付きながらそう思っていた。


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by obtaining | 2008-12-09 18:33 | document

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