とあるところで書いた習作5 黄昏閑話2

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そんな事を話しているうちに、夕暮れは徐々に日を落としてきていた。
すっと、机の上に影が差し込む。

「チーズバーガー。食べ終わっちゃった。」
もう、帰ろうか。ジェシーさんにそう言おうと思って、
でも直接そう言うのもなんだからと思って日ノ本がそう言うと、
ジェシーさんは
「日ノ本は本っ当によく食べるね。」とちょっと笑って自分のテリヤキバーガーを僕に差し出してきた。

「食べていいの?大分残ってるよ。」
「だから渡したんでしょ。全部食べていいから。」

「ありがとう。ジェシーさん。」
テリヤキバーガーはマジで美味しい。
ジェシーが齧った所を直接齧るのはちょっと恥ずかしくて、だから日ノ本はその周りから齧った。

「テリヤキバーガー、日ノ本が考えたんだっけ。」
「うん。醤油と日本酒と砂糖を等分で混ぜた奴塗るとお魚とか美味しいから、ハンバーガーならどうかなって思って。」

日ノ本がむしゃむしゃとテリヤキバーガーを齧りながらそう答えると、ジェシーは俯いた。

「日ノ本は、凄いな。」
「・・・?どうして?」

今日のジェシーさんは、本当に元気が無い。
日ノ本は思わず食べる手を止めた。

「私は、失敗してばかりだから。」
ジェシーの声は、震えていた。

「え、え、そんな事無いよ。僕ジェシーさんから色々教わったじゃない。ジェシーさんは、すごいよ。」
日ノ本はジェシーの震えた声の訳がわからなくて、混乱しながら言った。

「喧嘩も強いし、リーダーシップもあるし。凄いよ、ジェシーさんは。」

俯いたまま、ジェシーはぐすっと鼻を鳴らした。
「車だって、ヒトラーは丈夫に、君は小さくした。
このテリヤキバーガーはとっても美味しい。
君は張やKOSPIや全からどんなに言葉で虐められてもニコニコ笑っている。
それなのに、それなのに私はちょっと気に入らないからって、
紙飛行機をぶつけられたからってクラスで大暴れして。」

「そ、そんなことないよ。布施君のは、その、ちょっとあれだったけど
でもジェシーさんが怒るのも、無理ないよ。」

「それだけじゃない。皆が風邪を引かないようにって、
皆があったかいといいなって思って
良かれと思ってやった事によって今度は酷い風邪を引いて、皆にうつすし。」

「・・・ジェシーさんは悪気があったんじゃないじゃないか。
皆はジェシーさんを責めるけど、僕はそうは思わないよ。
ジェシーさんは一生懸命頑張ってるじゃないか。
僕だって手伝うからさ。元気だそうよ。」

僕がそう言うと、ジェシーさんはぐすっと鼻を鳴らしてから小さな声で、
ありがとう。
と、そう言ってくれた。

でもジェシーさんは顔を上げてはくれなかった。
僕なんかじゃ。僕なんかじゃやっぱりジェシーさんの支えにはなれないのかもしれない。

僕が、弱いから?
僕がアッパーカットを練習して、ジェシーさんを守ってあげれば、
ジェシーさんは笑ってくれる?

でも多分、唯我独尊なジェシーさんの性格と、
それから調子に乗りやすい僕の性格を考えると
僕が守るなんて言ったら今度こそ洒落にならないガチンコの殴り合いになるような気もするし・・・

日ノ本は困り果ててうろうろとジェシーの周りを廻った。
日ノ本が宥めてもすかしてもジェシーは笑ってくれなくて。
その時、
どうしようもなくて途方に暮れていた日ノ本の肩に、ぽんと手が置かれた。

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「あら、二人とも何してるの?」
「あ、エリザベスさん。」

僕の言葉にジェシーさんがむくり、と顔を上げた。
「こんにちは。ジェシー。」
「・・・エリザベス。」

日ノ本はほっと胸を撫で下ろした。
何といってもエリザベスさんはクラスのお姉さん役だ。
日ノ本は知っていた。
ジェシーさんは実はエリザベスさんの事が大好きなんだっていう事を。

ジェシーさんがいつも身に付けている時計のデザインは、
エリザベスさんのものとよく似ていたからだ。
日ノ本の時計はシンプルな白地に赤丸がぽちっとついたデザインで、
これはこれで渋いと思うのだけれど、
エリザベスさんやジェシーさんのは赤とか青とかが直線に交差していたり、
ジェシーさんのはそれに加えて沢山の星マークがあったりなんかして超カッコいい。

ジェシーさんは、私のやっつけた悪者の数だけあるのよ。なんてうそぶいているけれど、
僕は嘘だと知っている。
ジェシーさんの、親戚を含めた家族の数だけある、星だ。

二人で良く喋っているのを見ることもあるし。
きっとエリザベスさんならジェシーさんを元気付けてあげられるかも。
そう思った日ノ本を察したのだろうか。
エリザベスは右目で日ノ本にウインクをすると、ジェシーの向かいに座った。

「ねえ、聞いてよジェシー。」
「何よ。エリザベス、今、私気分が良くな」
「ジャンヌさんがね、私の料理がまずいって、そんな事言うのよ。酷くない?
料理なら私が一番ね。なんてそんな事言うの。」

「・・・。それは生意気ね。」
「しかもね、ヒトラー君やナポリさんまで、私の料理がまずいなんて、そんなこと言うの。
しかもね、通りがかった張さんなんて、あんたの料理は2度と食べたくない。
なんて言い捨てていったの。
そんな事を言うなんて酷いと思わない?ね、日ノ本君も。」

「・・・そ、そうだね。」
日ノ本は引きつった笑みを浮かべながら頷いた。
かなりデリケートな話題だったからだ。

エリザベスさんはお嬢様だし、クラスでもトップクラスの美人だし、物腰も柔らかくて歌も絵も上手、
運動だって得意な、言ってみればパーフェクトな人なのだけれど一つだけ苦手なものがあった。

それが料理だ。
何でも油に放り込んで揚げてから食べようとするし、しかもその油で揚げるのを何度も繰り返す。
ギトギトになったそれを、あぐあぐととても美味しそうに食べる。
そしてにっこり笑ってこちらに勧めてくる。
本人至って自分は料理上手だと思っている所がたちが悪い。

繊細な料理をいとも簡単にさらっと作るジャンヌさんや
オリーブオイルを活用して物凄い美味しいパスタをいっぱい振舞ってくれるナポリさん、
それに味付け豪快、油たっぷり、でも喉越し柔らか胃にも優しい、
そんな料理を作る張さんなんかが苦言を呈したくなるのもよく判る。

正直な所日ノ本はジャンヌさんやナポリさん、張さんの言う事も最もだと思う。

だけどエリザベスを傷つけたくないし、それに、今はジェシーさんに元気になってもらいたい。
そう思って日ノ本はエリザベスに向かってゆっくりと頷いた。

そう答えた日ノ本に、ジェシーが微妙な視線を送ってくる。

「でね、でね。しかもジャンヌさんったらジェシーの事も言ったのよ。
あの子はハンバーガーとポテトで満足なんじゃない?なんて。
さも馬鹿にした口調で。」

「・・・調子に乗ってるわね。大体あいつ、さりげなく私の2番手、
いえ寧ろ1番手みたいな態度が鼻に付くのよね。
芸術家気取ってるし。」

「でね。今度の体育祭、私が実行委員じゃない。
絶対張さんやジャンヌさんを見返してあげたいの。
ジェシーもいい案無い?」

「そうね、作戦会議を開きましょう。」

ジェシーさんはいつの間にか顔を上げていた。肘を突いて、エリザベスさんと顔をつき合わせている。
そうやって喧々諤々と話し始めた二人を見て、日ノ本はじゃあ、僕は帰るよ。とそう言った。

ジェシーは日ノ本の方をちらりと見ると、恥ずかしそうに顔を反らせて、
それからバイバイ。とそう言って日ノ本に手を振った。

エリザベスはこっそりと日ノ本の耳元に口を寄せて、まかせといて。とそう日ノ本に耳打ちした。

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黄昏ももう終わって、本格的に暗闇が地面を覆っていた。
転ばないように気をつけながら、日ノ本はゆっくりと土手を寮に向かって歩いた。

今日は何だか楽しかった。
ジェシーさんのテリヤキバーガーも食べれたし・・。
勿論、ジェシーさんは悩んでいたんだし、
楽しかったなんていったらジェシーさんに悪いけれど。

でも。
日ノ本はジェシーの言葉を思い出して、1人で少し笑った。

ジェシーさんは唯我独尊な感じに見られるけれど、でも悩む事だってあるんだ。
それに、ジェシーさんは僕の事も褒めてくれた。

土手から、日ノ本の住む寮の明かりが見えた。
ジェシーの事が、少しだけ判った気がして。

日ノ本はいつもよりほんの少しだけ明るく見える寮に向かって、ゆっくりと歩いていった。




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by obtaining | 2008-11-15 15:02 | document

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