とあるところで書いた習作4 黄昏閑話1


「おいしいね。スターバックス。僕、ホットのキャラメルマキアート大好きなんだ。」
「・・・」
「このチーズバーガーもまた美味しいよね。ピクルスが効いてて。ね。ジェシーさん。」

「・・・あんた本っ当に、うちのもの好きよね。」
ジェシーが呆れたように日ノ本に視線をやる。
日ノ本は左手にスターバックスのコーヒー、右手にマクドナルドのハンバーガーを抱えている。

「私が言う事でもないけど寿司とか食べないの?」
「お寿司高いし。ハンバーガー安くて美味しいし。」

「・・・そ。まあ、いいけど。」

露出度の高いタンクトップとジーンズという格好のジェシーはふう、
と溜息を吐いてスターバックスのコーヒーを啜った。

その物憂げなジェシーの様子を日ノ本はじっと見つめた。

ジェシーさんはやっぱり格好が良い。
普通の女の子がしていたらちょっと派手すぎなように感じる赤色のタンクトップも、
太腿の所が破れているジーンズもスタイルの良いジェシーさんならばっちりと映える。

ハンバーグも美味しいし、スターバックスのコーヒーは絶品。

その上、そばかすが少し気になるとか言うけれど、顔立ちだって可愛らしいし、
喧嘩だってジェシーさん、張さん、アナスタシアさんの3人で張り合っていて
多分、クラスで1番目か2番目位には強い。

ちょっと我侭で、唯我独尊のきらいはあるけれど。
やっぱりジェシーさんは凄いなあ。と改めて日ノ本は思った。

それにしても今日はちょっとジェシーさんは物憂げだ。
学校帰りに折角二人で外食に寄ったと言うのに、はあ。と溜息ばかりついている。

「どうしたの?ジェシーさん。」
日ノ本は心配になってそう言った。

「・・・」
「悩みがあるなら、何だって言ってよ。」

「・・・そうね。」
ジェシーはくるりとストローを回すとずずずとコーヒーを啜り、
体勢を整えて日ノ本に向き直った。

「実は執事の事なんだけれど。」
「うん。」

「今度変えようと思ってるのね。執事。」
「え、そうなの?あ、そうなんだ。ちょっとびっくり。皆に言わなきゃ。きっとびっくりするよ。」
「ああ、そうよね。あなたの所の前の執事とうちの執事仲良かったものね。で。それで悩んでるの。」

ジェシーが心底弱った。という感じなので日ノ本はおかしくなった。
あんまりそうやってジェシーが悩む所を見たことが無かったからだ。

「そ、そんなの悩む事なんか無いよ!誰だって大丈夫だよ!きっと頑張ってくれるよ。」
ジェシーは能天気にそんな事を言う日ノ本に溜息を吐いた。
「はあ・・・あのね。あんたん所とは違うのよ。」

「あんたの所って、基本一年交代位で変わるじゃない。」
「別に変えようと思ってる訳じゃないんだけど・・・」
「うちはね、一回なったら長いの。基本4年だけど大体8年はいるわね。
しかも基本、家の事は殆ど執事にまかせっきりにするから影響力も高いわけ。」

「へえ。うちの家は皆で話し合うよ。だから誰がなっても大丈夫なんだ。」

そういえば、と日ノ本は思った。
ジェシーさんが布施君を思いっきりぶん殴ったのって、
執事さんから布施君が消しゴム爆弾を一杯作ってるって言われたからだっけ・・・

でも、ジェシーさんの家は、賢い人とかも沢山いるし、心配する事無いんじゃないのかな。
日ノ本はそう思ってジェシーに言った。
「ジェシーさんのところなら誰がなっても大丈夫だよ。」

日ノ本の言葉にがっくりとジェシーは肩を落とした。
「そこが悩みどころなのよ。」
「どんな所?」

日ノ本がジェシーの悩み事を聞けるなんて事はそんなにあることではない。
だから日ノ本はちょっと楽しくて、ジェシーの言葉に耳を傾けた。

「あのね、今の執事って正直、かなり馬鹿でしょう。かなり。」
「え?」
「あーあー。いいの。判ってるから。プレッチェル大好きだからって、
 私にやたらと食べさせて私の喉詰まらせて殺そうとするし。
 私もいる公の場で力いっぱい進化論否定したりするし。」
「え、え、え、でも。」
「プレッチェルの時なんかは死ぬかと思ったわよ。
 ・・・まあ、一部人当たりはよかったけどね。信心深いし。
 まあ、基本いなかのとっちゃんだから付き合いやすいし。
 いい奴はいい奴。喧嘩っ早いけど。」
「う、うん。」

「だから。今度は賢い奴にしようかなと思ってるわけ。」
「うん。」

「で、今いる候補が黒人の若手と、経験豊かな爺さんって訳。あんたも知ってるでしょうよ。」
「ああ、小浜さんとマツケンさん。」
「そうそう。」
「なあんだ。どっちも凄く賢そうな人じゃない。いいなあ。贅沢な悩みだよ。
 で、ジェシーさんはどっちにしようと思ってるの?」

日ノ本はジェシーの家にはよく遊びに行くから二人の事も知っている。
キリリとした精悍な小浜さんと、百戦錬磨の力持ちという感じのマツケンさん。
どちらもいかにも仕事できそう。な感じだ。

「うーん。今のところ小浜かなって。マツケンは今の執事とそう変わんないしね。
気分変えたいってのもあるから。」
「へえ。凄いなあ。小浜さん。」
小浜さんかあ。きっと凄く頑張ってくれるよ。
そう、日ノ本は言った。

「そううまくいけばいいんだけど。」
それなのにジェシーは浮かない顔を浮かべている。
それが日ノ本には解せなかった。若くて精悍なやり手と百戦錬磨の老将。
どっちになったって、凄く楽しみじゃないか。

「何が心配なの?」
日ノ本の言葉にジェシーははあ。と溜息を吐いた。

「なーんかやな予感がしてるのよ。どっちになっても途中で死ぬんじゃないかって。
すると、代わりの2番手のこと考えなきゃいけないでしょ。
小浜の2番手はまあ普通だけどいかんせん地味。マツケンの2番手は知恵が足らない。
なーんで初手から2番目の事考えなきゃいけないのよって話なわけ。」

「え?え?えーと。マツケンさんの場合はお年だし、判るけど、
 小浜さんは若いし、なんでそんな事を心配するの?」

ジェシーの言葉に日ノ本が驚きながら口を開くと、
ジェシーはじろりと日ノ本を睨んだ。

「暗殺から身を守るのって大変だから。」

その瞬間、
えええ、暗殺!?と驚いた日ノ本の肩にぽんと手が置かれた。


@@
「よう、日ノ本。」
「わ!」

「あら、ヒトラー君。こんにちは。」
「おす。」
「あ、ひ、ヒトラー君か。びっくりした・・・。」

「何の話してんの?」
「あ、あのね。」
「何でもいいでしょ。あんたには関係ないし。」

「あっそ。」
一度肩をすくめた後、ヒトラーはそういえば、と言って日ノ本に顔を向けた。
ぐっと手を握って日ノ本に向かって突き出してくる。

「よ。日ノ本。今度の工作の時間は負けないからな。」
「え、えへへ。僕も負けないよ。」
日ノ本も拳を作って、ごつん。と手を合わせる。

「はあ。あんたら、本当に工作の授業、好きね。」
いつも工作の時間になると張り合うように争う二人にジェシーは呆れたようにそう言った。

「お前はなんでもでかく作りすぎなんだよ。物ってのは丈夫に作らないとな。」
「うんうん。ち、小さく作るのも大事だよ。」
「うっさいわね。ちまちましたの嫌いなのよ。でっかくどーんが基本でしょうが。」

顔を赤くしたジェシーにヒトラーが笑う。
日ノ本は二人のやり取りをにこにこと眺めながら
そういえば、この前具合が悪くなったドナウ君も工作の授業好きだったなあ。
などと思い出す。

「ははは、ま、ジェシーらしいけどな。ま、俺の用事はそれだけだ。行くぜ。」

そう言うとヒトラーは日ノ本の肩をぽん。と叩いてからきゅっと帽子を被り直した。
ヒトラー君は独特のセンスがあって、結構カッコいいなあ。と日ノ本は思う。

「うん。じゃあね。ヒトラー君。」
日ノ本がそう言うと、ヒトラーはぴしり、と敬礼して片手を高く掲げた。

「ハイル・ヒトラー!!」
「あはははは。は、はいる、ヒトラー!」
冗談交じりのヒトラーのそのポーズに日ノ本も同じように返す。

「・・・」

「おーう。じゃーなー。今度はナポリ抜きでやろーなー。」
「あはははは。ばいばい。」

「・・・何今の。」
ヒトラーが去った後、唖然とした顔のジェシーが日ノ本に向かって呟く。
「え?」

「はいる、なんとかって。」
「え?えーと、なんだろう。僕とヒトラー君の間の挨拶って言うか。
なんかそういう遊びって言うか。」

「あのね。やめといた方がいいよ。ジャンヌとかすっごいそういうのに敏感だから。」
「え、そうなの?」
「その知らないでやると大怪我するわよ。」
「知らなかった・・・あ、だ、だからかな。
この前ね、かっこいいかなと思ってお寺のマークを鞄につけたんだけど、
ジャンヌさんにすっごい睨まれた。」

「あー。だめよ。そんなことしちゃ。まあ、トラウマ刺激するみたいだし、その手の事はやめておいた方がいいわね。」

うんうん。と頷いた後、ジェシーはそうだ。と日ノ本に顔を向けた。
「あとあれ何。ナポリ抜きでって。」

「え。」
ジェシーの言葉に日ノ本は暫し戸惑った。
少しデリケートな話題だったからだ。


@@

日ノ本は昔、引き篭もりだった。
家にある漫画やお菓子が大好きで、外に出かけようとは思わなかったし、
趣味は手元にある材料から自分で色々工夫して作る事だったから外に出る意味もあまり感じていなかった。
家の中でちまちまと色々なものを作って、必要な者はAMAZONで頼んで取り寄せて
日がな一日遊んでいた。

そんな彼が学校に来るようになったのはエリザベスとジェシーのお陰だった。
彼女達は日ノ本の事を心配して、というか遊びたくてというか、
何回も日ノ本の家に来ては、日ノ本を誘い、日ノ本を外へと連れ出したのだ。

その時は随分迷惑だと思ったものだけれど、今では日ノ本もその事について二人に感謝している。

特にエリザベスさんだ。と日ノ本は思う。
ジェシーさんはまあ、昔から唯我独尊でこんな感じだったから僕も慣れるまでに随分違ったけれど
エリザベスさんは違った。
とっても優しくて、色々教えてくれて。
見た目は物腰が柔らかくて、箱入りお嬢さん。といった風情。
金髪に美しい青い瞳。小首を傾げる可愛らしい仕草。
白いブラウスが似合う、絵に描いたようなお嬢様。
にっこりと笑うと花が咲いたようで、とても美人だ。
クラスでもお姉さんといった感じで慕われていて、
あの時も僕の面倒も何くれとなく見てくれて。
僕とエリザベスさんはすぐに仲良しになった。
学校帰りには一緒にご飯を食べて、色々相談に乗ってもらったり、
休みの日にも一緒に図書館に行ったり・・・


でも、その頃の僕は・・・。
その頃の事を思い出すと日ノ本は顔が赤くなってしまう。
引き篭りから脱した僕は、いや、僕だけじゃない。
周りの皆も急にそうなった僕をどう扱っていいか判らなかったんだと思うけれど
僕も周囲とどう付き合っていったらいいのか判らなかった。


尊大に振舞ってみたり、逆に卑屈になってみたり。
その頃お家の事情が大変だったアナスタシアさんと大喧嘩をしたり、
なんか変なにおいのする煙草にはまっていた張さんともエリザベスさんと一緒に随分派手な喧嘩をした。
同じく引き篭もっていたKOSPIさんとも、上手く付き合えてたんだろうか。
僕なりにやってはいたのだけれど、今になってもKOSPIさんにはよく怒られるからやっぱり駄目だったのかもしれない。

その挙句僕はエリザベスさんを裏切って、エリザベスさんと仲の悪かったヒトラー君、
ナポリさんやそれ以外のドナウ君やルーマさん達何人かと一緒になってジェシーさんと喧嘩になった。

そしてクラスでも伝説に残る位派手な大喧嘩をした挙句、僕は負けた。


最終的にジェシーさんに派手なアッパーカットを2発喰らい、
(あんまり痛かったからその後僕はアッパーカットは封印した。
あれはとても痛いから皆も封印するべきだと思うのだけれど
その後皆してぶんぶんアッパーカットの練習してたりして超怖い。)
最後にはいきなり乱入してきたアナスタシアさんに飛び蹴りを喰らってノックアウトされたのだ。

皆に袋叩きにされて、僕はその時に本当に懲りてもう二度と喧嘩なんてしないって誓った。

ちなみに僕だけじゃなく、ヒトラー君もエリザベスさんに扇子で派手にひっぱたかれたり
アナスタシアさんに回転飛び膝蹴りを喰らったりして大変な目に遭ったし、
この前倒れたドナウ君に至ってはヒトラー君に脅されてお腹叩かれるわ
アナスタシアさんに後頭部蹴られるわで一番大変な目にあったうちの1人だ。

そう。今、ジェシーさんが聞いてきたヒトラー君と僕の冗談は、その時の話に関係していた。
僕はあまり関係ないのだけれどナポリさんと組んだヒトラー君はそれはもう酷い目に会ったらしい。
ナポリさんは料理は上手だし、絵も上手だけれどあんまり喧嘩は強くなかったみたいで
そんなナポリさんを守る為にヒトラー君は酷く苦労したそうだ。
忙しくても構わず昼寝するわ、お昼はパスタじゃなきゃいやだって駄々をこねるわ・・・
挙句の果てにアテネの野郎と勝手に大喧嘩始めて、中入ってさんざん引っかかれたの俺だぜ?
こっちだって忙しかったのに・・
挙句の果てさっさと裏切って私は向こうの味方だから。ときたもんだ。
とはヒトラー君の弁だ。

だからヒトラー君は(多分、親しみを込めて)挨拶代わりに僕に今度はナポリ抜きでやろうぜ。なんてそう言う。
時々ドナウ君とかルーマさんとかは?と思うのだけれどその件に付いては聞いた事は無い。

ま、そんな事情があるものだから僕はジェシーさんへの返答に詰まった。
もうジェシーさんと喧嘩する気も無いし。
でも、冗談だからな。言った方がいいかな。
そう思ってもごもごと下を向いているとジェシーさんは察してくれたのか

「ま、いいけどね。」
と呟いてくれた。
こういうところも、僕がジェシーさんの事を好きな理由だ。
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by obtaining | 2008-11-11 22:11 | document

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