とあるところで書いた習作3

「よう。日ノ本。元気かよ。」
夕暮れ前、寮へと急ぐ日ノ本は後ろから声を掛けられて振り向いた。
土手には夕日が薄く赤い光を川に注いでいて、その跳ね返りの光がきらきらと光っていた。

「あ、ファンド君。・・・」
「何だよ。元気ねえな。」
ファンドは薄く笑った。相変わらず自信のなさげな態度だ。
これでそこそこ喧嘩が強いってのが信じられない。

「ばっか。しけた面、すんなよ。」
「え?」

ファンドは日ノ本を土手へと誘った。
「あのときの事、思い出せよ。」
「あの時の、こと?」

「てめー。忘れたとは言わせねえぞ。」
そう言いながらファンドは拳骨を固めてごん、と日ノ本の胸に当てた。

「はは。」

ファンドの言葉に日ノ本は心当たりを思い出して、薄く笑った。

「あんなの、反則だよ。」
「ばっか。反則だって、勝ちは勝ちだろ。お前は強いんだって。」
「だって、あの後、ジェシーさんからもジャンヌさんからも皮肉言われたし・・・」

「気にすんなよ。ポーズだって!そんなの!ああ、凄かったよなあ。お前のあのパンチ。
俺らをまとめてブッ飛ばしちまう奴なんて、始めてみたぜ。なんつったっけ?あの必殺技。」

「恥ずかしいよ・・・」

「ばっか、確か超かっこいい名前だったじゃん。なんだっけ。」

「・・・日銀砲」
「そう、それ。それ。日銀砲!なんだっけ。何の略だっけ!」

「・・・日ノ本銀河スーパーギャラクティカマグナム砲の略。」

「そうだ。それだよ。凄かったよなあ。一分間に10億発だっけ?
あれ喰らって、俺たちすっかり延びちまったよな。」

「えへへ。・・・でも、怒られたし、もう使わないんだ。」
「なんだよ。もう一回見せてくれよ。」
「やだよーあははっ・・・もーくすぐったいってファンド君!」

「ところで、何でそんなにへこんでるんだよ。日ノ本。」
「・・・」

「黙ってたって判んないだろ。俺でいいなら、話、聞いてやるから。」
「・・・」
「おい、ほら。」
「・・・ファンド君のこと、僕、好きだよ。」

「・・・なんだよ急に。俺だって」
「ファンド君のこと!冷たい、みたいに、思う、人もいるけど、でも!でもファンド君は仲間にはとっても、やさしいし。」

「・・・どうしたんだよ。」

「でも、悪いことする、ファンド君、のこと、は僕、あんまり好きじゃない。」

「・・・」

「・・・KOSPIさんの、事だよ。」

「・・・」


カラスの鳴き声がした。
土手に注ぐ夕日が、ファンドと日ノ本を同じように照らしていた。
ファンドは、日ノ本の目をまっすぐに見つめた。

「日ノ本。」
「・・・うん。」

「悪い、何が悪いんだか全然わからねえ。」
「ええええええええええええ」

「何か俺、KOSPIに悪いことしたっけ。」
「だって!昨日、僕見て!ファンド君、KOSPIさんに!ひどい、ひどい事!」

日ノ本の必死の訴えをさえぎる様に、ファンドは手を前に出した。
「見てたのか。日ノ本。」
「見てたよ。みんなで、寄ってたかって、抵抗できないKOSPIさんを!」

今にも掴み掛からんばかりの日ノ本に向かってファンドはゆっくりと笑った。
「日ノ本。あれが、市場経済だ。」

「そんなの、そんなのってないよ!」

日ノ本の脳裏には昨日の保健室の光景がまざまざと蘇っていた。
スカートしか身に着けていなかったKOSPIの肢体。
汗でぬめった白い肌。
そして、KOSPIに群がるようにしていたファンド君を筆頭にした不良達。

「はは、日ノ本は純情だからな。
KOSPIもあれで結構喜んでるんだって。
俺たちに気持ちよく使ってもらって、さ。」

「嘘だよ!」

「なんだったら、日ノ本もどうだ?2回り目からは意外とあいつもおとなしくなりやがって
いい感じに気分出して」

「嘘だ!!嘘だっ!」

「おいおい、日ノ本。いい加減大人に」

「今日、泣いてたよKOSPIさん。こっそり、学校の裏庭で。
IMF先生を呼ぼうかって言ったら、振り払われて絶対にいやだって言われた。
KOSPIさん、傷ついてたよ!
そんなのが、そんなのが市場経済なら、僕は、僕は!」

「馬鹿やろう!」
夕日を振り払うような、ファンドの右手が日ノ本の頬へ飛んだ。

「痛っ!」
「・・・」
「悪い・・・」

「ううん。ごめん。僕の方こそ・・・ファンド君だけが悪いわけじゃないのに・・・」

「・・・俺たちは、俺たちのやりたいようにやる。別に、正当化はしねえよ。
正しいかどうかじゃない。やりたいようにやるんだ。KOSPIを抱きたきゃ抱く。
エリザベスの時も、泰の時もそうだった。やりたきゃやるのさ。
ははっ。KOSPIは中々いい味だったぜ。
やられたくなけりゃ、日ノ本、お前みたいに必殺技でもみつけるしかねえ。
俺たちは確かに悪者かも知れねえ。
でもな、これだけは言っておく。
張やアナスタシアが目指す世界とこの世界、どっちにも正解なんてものはねえ。
俺は俺なりに今ある現状で精一杯やる。それだけだ。」

「・・・でも、僕は」
言いたいことが言えなくて黙り込んでしまった僕に、ファンド君はようやく顔を緩めた。
ごん、と拳骨を胸に当ててくる。

「判ってるよ。お前のことは。」

「僕は、それを認めたくない。」

「ああ、そう思ってんだろうよ。甘ちゃんだからな。お前は。上等だ。俺とお前とは敵だ。
次は負けねえよ。」

「僕だって、負けない。」

ファンド君は、大きな声で笑ってから、僕の肩を押して立ち上がった。

「元気、出たじゃねえか。」

「・・・」

「俺は馬鹿が嫌いなんだ。市場経済市場経済、って突っ走って俺らの真似してすっこける優等生も、
俺らを全て否定しようとするお嬢様も俺は嫌いだ。
全員ブッ飛ばしてやるぜ。女なら無理やりにだってやってやる。
・・・だがな。色々考えて、この世界で生きていく為に必殺技まで身につけて、
それでも悩む、そういう馬鹿は、俺は嫌いじゃねえ。」

「・・・ファンド君。」

「ああ、次会った時は敵だからな。必殺技でもなんでも出してきやがれ。」

「・・・僕は、やっぱり認めることはできない。でも。」

「馬鹿、照れくせえんだよ。帰るぜ。じゃあな。」

ファンド君は斜めに被ったぼうしをすっと僕の方へと持ち上げると、土手を、来た道の方へと歩いていった。

「はは。」

少しだけ、気が楽になって、僕はお尻を叩いて、立ち上がった。
その瞬間だった。

何か嫌な予感がしたのは。

土手から道路へと上がり、周りを見渡す。
何もない。
気の、気のせい?

「そう、そういうことだったの。」

その瞬間、背後の声に僕は飛び退った。

「こ、KOSPIさん!」

「よーくわかった。そういう事だったんだ。」
KOSPIさんの顔面は、蒼白だった。

「はは、おかしいと思ったんだ。私、確かに最近学級委員長とかやってたけど、
そんなにファンド君に目をつけられるとか、そういうのなかったと思ってたから。」

「私、真面目にやってたつもりだし。確かに馬鹿だったかもしれない。馬鹿、
そう、馬鹿だった。」

「こ、KOSPIさん?」

「ファンド君に保健室に連れ込まれて、凄く恥ずかしい格好を無理やりさせられて。
私、ふふ、笑っちゃう。助けてほしい、だって。」

「だ、大丈夫?KOSPIさん。」
「今判った。あなただったんだ。」

「ええ?」

「あなたが、裏で糸をひいてたんだ。すっかり騙されちゃった。」

「ええええええええええ」

「ご、誤解だよKOSPIさん。」

「うううん。もういいの。見ちゃったから。今、君が彼といるところ。」

「いや、それは違うくて男の友情というか」

「嘘。あーあ。私、馬鹿だな。馬鹿。本当に馬鹿。」

「違う、違うんだって。僕は寧ろ」
うろたえたようにKOSPIに近づく日ノ本に、KOSPIは泣きはらして真っ赤になった目で睨みつけた。
それだけで、KOSPIの悔しさが判ったようで、日ノ本は何も言えなくなってしまった。

「私ね、いつか分かり合えると思ってた。もちろん、君には色々と意地悪もしたけれど、
でもせっかくそばにいるんだもん。いつかわかりあえるって、そう思ってた。」

「私は張さんとも仲が良いけれど、でもやっぱり一番は君だって。
だから、あの時もしかしたら君が、君が助けてくれるかもしれないって。」

「だから、僕は・・・」

「最悪。あーあ。やっぱり騙されちゃった。」

「違うんだ、KOSPIさん。」

「何が違うのよ!私が、私がどんな恥ずかしいっ恥ずかしいことさせられたか判ってるの?
君に、君に何が判るの?誰にも、絶対、絶対こんなこと誰にもいえないっ!
う、う、うわあああああああああん。」

いつもは強がりばかりで絶対に泣き顔なんて見せないKOSPIの泣き声は、日ノ本の心を打った。
考えてみれば、僕に一片の咎も無いかといえば、そんな事は無い。
KOSPIさんは誤解しているけれど、誤解されても仕方の無い行動を、僕はしたのかもしれない。
だって、助けようと思えば助けられたはず。それなのに、僕は見てみぬふりを・・・
日ノ本はそう思った。

そして、ゆっくりとKOSPIの肩に日ノ本は手を掛けた。

KOSPIの肩は小さく揺れていた。

しゃがみこんだKOSPIさんの横に日ノ本は同じようにしゃがみ込んだ。
そして、KOSPIの背中を覆うように、ゆっくりと手を回した。
KOSPIの背中は温かくて、そして、小さかった。

こんなに、小さくて、それなのにファンド君たちに負けないように、あんなに頑張って。

それなのに、僕は張さんやアナスタシアさんと見ていただけで、
僕は、僕はなんて卑怯者だ。
そんなの、そんなの加担したのも同然じゃないか!
えらそうにファンド君にあんなことを言って、僕だってまったく一緒じゃないか!
日ノ本は鼻の奥につんとくるものを感じて、思わず手で目元を拭った。

「ごめん、KOSPIさん。」

僕は心から出てくる言葉を口に出した。
守ってあげられなくて、ごめんなさい。
勇気が無い僕で、ごめんなさい。
僕は卑怯者で、そして最低だ。

日ノ本がゆっくりとKOSPIの背中を抱えて、
そしてゆっくりと時間が過ぎていった。

燃えるような夕暮れはいつの間にか、やさしい星空へと変わっていた。
しゃくりあげるように泣いていたKOSPIが少し落ち着いて、
鼻をすすりながらゆっくりと顔を上げた。

「IMF先生には言えない。」
「・・・僕に出来ることはないか、考えてみるよ。」
日ノ本はゆっくりと頷いた。

「馬鹿。」

KOSPIは日ノ本の顔を見て、呟いた。
日ノ本はゆっくりと頷いた。
「うん、僕は馬鹿だ。」

KOSPIが笑ってくれるなら。
今、日ノ本はなんだってやってあげたい、そう思っていた。

「竹島、返さないんだから。」
「ゆっくり話し合おう。」

「対馬だってほしい。」
「それはどうかな・・・住んでいる人もいるし。
でも、他に何かKOSPIが喜んでくれることがないか、考えてみるよ。」

「靖国も行かないでくれる?私、あそこ嫌い。」
「うん。行きたい人をとめることは出来ないけど、KOSPIがそう言うなら考えてみる。」

KOSPIと一緒に土手に座り、囁くようなKOSPIの言葉に、日ノ本は何度も頷いた。

星空を見上げながら、KOSPIと日ノ本は、いつまでもいつまでも話し続けた。


「・・・しかし、上手いわね。KOSPI。」
「あーいうの、私できないですー。」
「私だって出来ないわよ。麗君があんな事言ってきたら回し蹴りするね。てや。って。」
「んー。私もまず殴るわね。」
「ジェシー、あんたが言うと冗談にならないから。」

「あーあー。手、繋いじゃって。明日には青ざめるハメになるってのに。」
「ニコニコしてるし。」
「すぐにばれるだろうけどねー。っていうか私がばらすけど。」


「まあ、仕方が無いか。あれはあれで楽しそうだし。」
「様式美って奴?」

「んーん。馬鹿の美学って奴。涙もろくて、すぐ騙されて。嫌いじゃないけどね。」




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by obtaining | 2008-11-07 23:15 | document

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